康居

康居：中央アジアの遊牧国家

康居は、中央アジアに存在した古代の遊牧国家です。現在のカザフスタン南部、シル川中・下流域からシベリア南部にまたがる広大な地域を領有していたと考えられています。紀元前後の時代から歴史に登場し、周辺諸国との複雑な関係性を持ちながら、独自の文化と政治体制を築き上げてきました。本稿では、中国の史書などの史料に基づき、康居の歴史、政治体制、文化、そして周辺国家との関係性について詳細に解説します。

康居の歴史

前漢時代:

前漢の時代、康居は匈奴、烏孫、大月氏といった周辺勢力との間で複雑な外交関係を築いていました。張騫による西域探検において、康居は張騫一行を大月氏へと導く重要な役割を果たしました。その後、匈奴の郅支単于が康居に拠点を移したことで、漢と康居の関係は緊迫します。郅支単于の残虐な行為により康居王の怒りを買い、最終的には漢の軍隊によって郅支単于は討伐されました。その後、康居は漢朝に朝貢するようになります。

後漢時代:

後漢時代には、西域の覇権を争う諸勢力の争いに巻き込まれました。特に、莎車国との戦争においては、康居は莎車国を支援し、班超率いる漢軍と対立しました。また、北匈奴の勢力衰退後、北匈奴の一部が康居に亡命したことも記録されています。

魏晋南北朝時代:

魏晋南北朝時代には、周辺勢力の変遷に伴い、康居の勢力も変化しました。西晋や前秦に朝貢した記録が残されています。その後、エフタルの支配下に入り、「者舌国」と呼ばれるようになりました。この時代、康居の後継国家である康国（サマルカンド）が台頭し、周辺諸国を服属させました。

唐代:

唐代には、西突厥の内紛に巻き込まれました。西突厥の有力者が康居に亡命するなど、政治的な駆け引きの舞台となりました。唐の高宗は、康国の地に康居都督府を設置し、康国の王を都督に任命しました。

康居の政治体制と社会

康居は遊牧国家であり、遊牧民が支配階級を形成していました。康居王を頂点とする支配体制の下、複数の小王がそれぞれの地域を治めていました。王は季節によって居住地を移動するトランスヒューマンスを営んでいました。農耕民も存在し、遊牧民によって支配されていました。

康居王の下には、蘇䪥王、附墨王、窳匿王、罽王、薁鞬王の5人の小王がいました。それぞれの小王は、特定の都市を拠点として支配していました。これらの都市は、後の都市国家の基礎となったと考えられています。

康居の文化と経済

康居の文化は、周辺の遊牧民や農耕民の影響を受けて形成されました。大月氏や奄蔡と同様の風習を持っていたとされています。産業は、ブドウ栽培と馬の飼育が中心でした。

康居の人口

史記や漢書などの史料によると、康居の人口は、戸数12万、人口60万人、兵士12万人と推定されています。

まとめ

康居は、中央アジアの歴史において重要な役割を果たした遊牧国家でした。周辺勢力との複雑な関係性、独自の政治体制、そして独自の文化は、中央アジアの歴史を理解する上で不可欠な要素です。今後の研究により、康居の全貌がさらに明らかになることが期待されます。

参考文献

『史記』
『漢書』
『後漢書』
『三国志』
『晋書』
『魏書』
『北史』
『旧唐書』
『新唐書』
岩村忍『文明の十字路＝中央アジアの歴史』（2007年、講談社）
* 白鳥庫吉「西域史上の新研究 第一 康居考」『白鳥庫吉全集 第六巻』（岩波書店、1970年）

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