董文炳

董文炳（とう ぶんへい）

董文炳（1217年 - 1278年）は、モンゴル帝国（後の元朝）に仕えた漢人将軍です。字は彦明。父は金朝との戦いで戦死した董俊。早くからモンゴルに仕え、クビライに才能を認められ、その治世下で重要な役割を果たしました。

生い立ちと初期の活躍

董文炳は、現在の河北省藁城で生まれました。父の死後、若くして家を継ぎましたが、周囲からは若すぎるゆえに軽んじられることもありました。しかし、彼は的確な判断力と私財を投じて民を救う姿勢で、徐々に周囲の信頼を得ていきます。蝗害からの復興や流民の帰還に尽力し、故郷の安定に大きく貢献しました。

モンケ・カーン治下の南宋侵攻

モンケ・カーンが即位し、南宋侵攻が本格化すると、董文炳も軍官として前線に立つようになります。1253年には、クビライ（後のフビライ・ハーン）の雲南・大理遠征に加わるため、わずかな手勢を率いて危険な道のりを進みました。多くの困難を乗り越えクビライの下に辿り着くと、その忠義を高く評価され、兄弟とともにクビライに仕えることになります。

1259年、モンケの命による南宋侵攻では、淮西の台山寨攻略で手腕を発揮。城民への説得を試み、降伏を促しました。陽羅堡の戦いでは、先鋒として果敢に敵陣に切り込み、勝利に貢献。しかし、モンケの急死により、クビライ軍は撤退を余儀なくされます。

帝位継承戦争と李璮の乱

モンケの死後、クビライとアリクブケの間で帝位継承戦争が勃発。クビライはドロン・ノールでクリルタイを開き、皇帝を宣言しました。董文炳は宣慰燕南諸道、山東東路宣撫使に任じられ、クビライ政権下で重用されるようになります。これは、彼の軍事力と統率力が高く評価された結果でした。1261年には、侍衛親軍都指揮使にも任じられています。

1262年、李璮の乱が発生すると、董文炳は史天沢らとともに鎮圧軍に加わりました。彼は、城を包囲して兵糧攻めにする戦術を採用し、李璮軍を追い詰めます。田都帥を懐柔して李璮を裏切らせることに成功し、乱の鎮圧に大きく貢献しました。乱後、山東東路経略使に任じられ、山東地方の安定に尽力しました。

クビライ治下の南宋侵攻

1266年、鄧州光化行軍万戸・河南等路統軍副使に任じられ、南宋侵攻のための水軍建設を命じられます。500艘の戦艦を建造し、水戦の訓練を行いました。また、徴兵計画に関してクビライに適切な助言を行い、その才能を高く評価されました。

1270年、山東路統軍副使に改められ、沂州に駐屯。南宋との最前線で、兵站の確保に尽力しました。クビライの命令に反して旧来のやり方を守り、その理由を説明したことで、クビライに自らの正当性を認めさせました。

1272年、枢密院判官に移り、正陽両城の築城を担当。1273年には、夏貴率いる南宋軍の包囲を受けますが、自ら城壁に立って指揮を執り、激戦の末に撃退に成功します。襄陽城陥落後、バヤンを総司令とする南宋への全面侵攻が開始されると、董文炳もこれに参加。安慶攻略や揚州・真州の戦いで功績を挙げ、南宋軍を破りました。

南宋領平定

1276年、バヤン率いるモンゴル軍が臨安を制圧すると、董文炳は南宋の官府を解散させ、宝物庫を接収。南宋皇帝の璽符をバヤンに届けました。彼は南宋皇帝の身柄を保護し、略奪や暴行を禁じたため、南宋の民は彼の統治を歓迎しました。また、南宋の史書を保護し、後世に伝えることに貢献しました。

バヤンはクビライに「董文炳の功は多い」と報告し、董文炳は資徳大夫・中書左丞に任じられました。その後、張世傑討伐のため派遣され、旧南宋民に配慮した政策を実施したため、各地の民が帰順。温州攻略戦でも掠奪を禁じたため、漳州・泉州などの諸郡がモンゴルに帰順しました。

晩年

南宋平定後、シリギの乱が発生すると、董文炳はクビライに北方での任務を志願しますが、クビライは南方の統治を委ねました。この際、泉州の蒲寿庚を重用するよう進言し、クビライに受け入れられています。大都ではアフマドが権勢を振るっていましたが、董文炳を畏怖していたため、彼が滞在中は横暴な振る舞いを控えていたと言われています。

1278年、病のため職を辞し、上都に移りました。クビライは彼を僉書枢密院事に任じ、その功績を称えました。しかし、その年の9月に病状が悪化し、亡くなりました。クビライは彼の死を深く悼み、金紫光禄大夫・平章政事の地位を追贈しました。

董文炳は、モンゴル帝国の南宋攻略において、軍事面だけでなく政治面でも大きな功績を残した人物として、歴史に名を刻んでいます。

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