蓮華寺 (京都市左京区)

蓮華寺：歴史と文化が織りなす静寂の空間

京都市左京区、比叡山を望む高野川のほとりにある蓮華寺は、天台宗の寺院です。近世初期に造営された池泉鑑賞式庭園の美しさで知られ、多くの観光客を魅了しています。しかし、その歴史は、現在の地に移るはるか以前から始まります。

蓮華寺の前身は、かつて京都駅付近にあった時宗寺院、西来院でした。応仁の乱で焼失した後、江戸時代初期の寛文2年（1662年）、加賀前田藩の家臣、今枝近義によって再建されました。再建の地となった上高野は、近義の祖父、重直が晩年を過ごした土地であり、重直は寺院建立を願いつつ、寛永4年（1627年）に亡くなっていました。近義の再建は、祖父の遺志を継ぎ、菩提を弔うために行われたと考えられています。

興味深いのは、西来院が時宗寺院だったにもかかわらず、再建に際して比叡山延暦寺の僧、実蔵坊実俊が開山として迎えられたことです。これにより、蓮華寺は天台宗に属する寺院となりました。また、寺号の由来は、この地がかつて恵心僧都が建立した同名の天台宗寺院の跡地だったことにあります。

蓮華寺の造営には、多くの著名な文化人が関わっていました。詩仙堂を造営した石川丈山、朱子学者の木下順庵、狩野派画家の狩野探幽、そして黄檗宗の開祖である隠元隆琦や二代目の木庵性瑫といった面々です。天和元年（1681年）の『東北歴覧之記』には、彼らの協力を記した記述が残されています。こうした文人たちの協働により、蓮華寺は黄檗宗様式の建築と、江戸初期の池泉鑑賞式庭園を併せ持つ独特の寺院となりました。

境内：歴史と文化を伝える建造物と石仏

山門をくぐると、庫裏へと続く石畳の参道が目に飛び込んできます。山門は創建当時のものが現存しており、歴史の重みを感じさせます。鐘楼は禅風の様式で、釣鐘には「黄檗二世 木庵瑫山僧」の銘が刻まれています。山門を入った左手には、約300体もの石仏群が安置されています。これらは河原町線の敷設工事中に発掘されたもので、かつて鴨川の河原に埋まっていた戦災や天災による犠牲者、刑死者の霊を弔うものです。参道の右手には、明治5年（1872年）まで寺子屋として使用されていた土蔵があります（非公開）。

庭園：静寂と美しさが調和する空間

参道正面にある書院と一体化した庫裏から庭園へと入ります。書院の東側に広がる池泉鑑賞式庭園は、寛文年間の作と推定されています。作庭者は不明ですが、重森三玲は、庭園趣味を持っていた実蔵坊実俊の作庭とする説を唱えています。

この庭園は、浄土式庭園の形式を採りつつ、書院からの鑑賞を主眼とした池泉鑑賞式庭園であるとともに、蓬莱山を模した蓬莱山水庭園としての様式も兼ね備えています。池は「水」の字形をしており、舟石、亀島、鶴石、蓬莱石組など、様々な要素が巧みに配置されています。特に舟石は、入舟の形をしている点が珍しいとされています。蓬莱石組には、今枝重直の一代記が刻まれた石碑が建てられています。

本堂：黄檗宗様式と貴重な寺宝

書院から右手に見える本堂は、黄檗宗様式の建築です。本堂入口には石川丈山の筆による寺額が掲げられ、内部には、螺鈿厨子に納められた本尊釈迦如来像や、阿弥陀如来像、不動明王像などが安置されています。天井には、狩野探幽が描いたとされる龍の図がかつてありましたが、明治期に失われ、後に復元されました。

蓮華寺は、歴史的建造物、貴重な寺宝、そして美しい庭園と、見どころ満載の寺院です。静寂に包まれた境内を散策し、歴史と文化に思いを馳せる、心安らぐひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。

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