蕗谷虹児

蕗谷虹児（ふきや こうじ）

蕗谷 虹児（ふきや こうじ、1898年12月2日 - 1979年5月6日）は、日本の挿絵画家、詩人、アニメーション監督として多岐にわたる分野で才能を発揮しました。彼は「抒情画」という独自のジャンルを創出し、その独特な作風は多くの人々を魅了しました。また、童謡・抒情歌「花嫁人形」の作詞者としても広く知られています。

生い立ちと家族

1898年、新潟県北蒲原郡水原町（現在の阿賀野市）で生まれた蕗谷虹児は、本名を一男といいました。彼の父・傳松は、北前船の廻船問屋の次男でしたが、家業を廃業し、新発田町で活版印刷所を開業しました。母・エツは、印刷所の職人が通っていた湯屋の看板娘で、その美貌から「京人形」と称された女性でした。二人は恋に落ち、水原町で虹児をもうけますが、印刷所の経営はうまくいかず、一家は困窮しました。その後、一家は新発田町や新潟市、柏崎などを転々としました。

父親は新聞記者や印刷工として働き、生活は不安定でした。母親は病弱で、虹児は幼いながらも家事を手伝いました。しかし、父親の酒癖が原因で生活は苦しく、一家は度々転居を余儀なくされました。そんな中でも、母親が描いた絵に触発され、虹児は絵を描き始めました。1911年、12歳で母親を亡くすと、虹児の人生は大きく変化します。若くして亡くなった美しい母への追慕の情は、彼の作品に大きな影響を与えました。

画家への道

母親の死後、蕗谷虹児は株式仲買店や洋服店で丁稚奉公を経験しました。その後、印刷会社に勤める傍ら南画を学びました。才能を認められ、日本画家の尾竹竹坡に師事するため14歳で上京します。竹坡のもとで日本画を学びつつ、浮世絵の研究にも励み、美人画の模写を通して絵画技術を磨きました。竹坡からは「見ていて拝みたくなるような、気品の高い美人画を描きたまえ」というアドバイスを受けました。1915年に一時帰郷した際、父親の窮状を知り、借金返済のために映画館で看板絵師として働きました。その後、放浪画家として各地を転々とする生活を送りました。

挿絵画家としての成功

1919年、蕗谷虹児は戸田海笛の紹介で日米図案社に入社し、デザインの修行を積みました。1920年、竹久夢二を訪ねたことをきっかけに、雑誌『少女画報』で挿絵画家としてデビュー。吉屋信子の少女向け小説『花物語』の挿絵で評判を博しました。その後も、『婦人倶楽部』などで多くの挿絵を手掛け、その名は全国に知れ渡るようになります。1921年には竹久夢二の許可を得て、筆名を「虹児」に改めました。朝日新聞に連載された吉屋信子の小説『海の極みまで』の挿絵を担当したことで、さらに人気が高まりました。夢二と並び称されるほどの人気挿絵画家となりました。

結婚とパリ留学

1922年、病状が悪化した父親の看病のため、東京に引き取りました。父親は虹児の結婚を望みましたが、困った虹児は大家の娘・川崎りんに結婚の真似を頼みました。しかし、りんの懇願で二人は実際に結婚することになりました。1923年には長男が誕生しますが、翌年に夭折してしまいます。

1925年、蕗谷虹児は妻とともにフランスのパリへ留学しました。苦学の末、フランス国民美術協会やサロン・ドートンヌへの入選を果たし、藤田嗣治や東郷青児らと親交を深めました。1927年には次男が誕生しました。しかし、1929年に東京の留守宅の経済的破綻により帰国を余儀なくされ、借金返済のために再び挿絵画家の生活に戻りました。パリ風のモダンな画風は人気を博しましたが、妻とは離婚し、松本龍子と再婚しました。

戦時中から晩年

1935年に詩画集『花嫁人形』を出版しましたが、戦時色が強まると、彼の絵は時代にそぐわなくなり、制作を一時中断しました。終戦後、再び活動を再開し、多くの絵本を手掛けました。1956年、日本初の本格的なアニメーションスタジオである東映動画に招聘され、1958年には短編アニメ映画『夢見童子』を監督しました。国産カラーインクによるアニメーション制作のノウハウを確立し、その後の日本のアニメーション界に大きな影響を与えました。

晩年は、若いスタッフたちから慕われ、指導を続けました。1966年には、新潟市に『花嫁人形』の詩碑が建立されました。1973年には最後の個展を開催し、母親との思い出を題材にした作品を発表しました。1979年、中伊豆温泉病院で急性心不全により死去しました。享年80歳。彼の机には、母親への懺悔と、再会を願う想いが綴られた手記が残されていました。

死後

1987年、新発田市に「蕗谷虹児記念館」が開館しました。また、『花嫁人形』を歌い継ぐため、毎年「全国『花嫁人形』合唱コンクール」が開催されています。

主な作品

「混血児とその父母」（1926年）
絵本『人魚姫』、『湖水の鐘』、『ふしぎなランプ』、『つるの恩返し』、『孫悟空』など

関連書籍

『別冊太陽　蕗谷虹児　愛の抒情画集』
『抒情の旅人 蕗谷虹児展』図録
『蕗谷虹児の世界 ベトエイユの風景』
『蕗谷虹児』
『夢の宴　私の蕗谷虹児伝』

関連項目

松本かつぢ - 義兄
神奈川県立山北高等学校（校歌の作詞）
弥生美術館
池袋モンパルナス

外部リンク

松岡正剛の千夜千冊
しばた観光ガイド　蕗谷虹児記念館
アンデルセン童話

もう一度検索