薬師寺久左衛門

薬師寺久左衛門：長崎の砲術と町政を担った武士

薬師寺久左衛門（生年不詳 - 万治元年（1658年））は、江戸時代初期の長崎において、砲術家、そして地役人として活躍した人物です。諱は種広といい、その生涯は武士としての側面と、長崎の町政を担う役割が色濃く反映されています。

大友氏家臣の流れ

薬師寺家は元々、豊後の大名である大友氏の家臣であり、筑前東郷を治めていました。しかし、大友氏の滅亡後、久左衛門の祖父である下野守種長らは長崎に移住し、磨屋町の乙名となりました。乙名とは、町をまとめる役職のことで、現代でいう町内会長のような存在です。

砲術家としての才能

久左衛門は、父・藤左衛門から鉄砲術を相伝しました。さらに、様々な流派を研究し、独自の砲術である鍛錬流（後に自覚流と改名）を創始しました。この流派は、長崎における砲術の発展に大きく貢献したと考えられています。
寛永14年（1637年）に勃発した島原の乱には、久左衛門は子の宇右衛門種永と共に幕府軍として従軍し、その砲術の腕を振るいました。

町政への関与

久左衛門の屋敷は磨屋町にあり、その広さは1,174坪にも及びました。久左衛門の死後、磨屋町の乙名は峰家が世襲することになりました。

元禄10年（1697年）には、高木彦右衛門貞親が唐蘭商売元締に任命されたことに伴い、久左衛門の子である種永の子、つまり久左衛門の孫にあたる又三郎種政が町年寄に就任しました。これにより、薬師寺家は代々、長崎の町年寄を務めることになります。町年寄は、町の行政を取り仕切る重要な役職であり、薬師寺家は長崎の町政に深く関わっていくことになります。

延宝元年（1673年）には、長崎奉行所が管理する大小19挺の石火矢を預けられるなど、長崎の防衛にも深く関わっていました。文化5年（1808年）のフェートン号事件の際には、長崎奉行の松平康英から、武器蔵の石火矢・大筒を所定の場所に配置するよう命じられています。

墓所

薬師寺家の墓地は、長崎市寺町の晧台寺の後山にあります。長崎の歴史に名を刻んだ一族の墓が、今も静かに佇んでいます。

薬師寺久左衛門は、砲術家として、また町政を担う人物として、江戸時代初期の長崎において重要な役割を果たしました。彼の生涯は、当時の武士の生き方、そして長崎という都市の歴史を物語る上で、貴重な一例と言えるでしょう。

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