藤の台団地

東京都町田市藤の台に位置する藤の台団地は、旧日本住宅公団（現在の都市再生機構）が大規模な住宅供給期に建設した集合住宅群です。一般向けの賃貸棟と分譲棟で構成され、首都圏の急速な人口増加に対応するため、近隣の町田山崎団地と並行して整備されました。1970年7月に入居が開始され、良好な交通アクセス（町田駅までバスで約15分、新宿まで1時間以内）も手伝い、当初は約1万6千人が居住する活気あふれる団地でした。

団地の特徴

町田市に多く見られる谷戸と台地が連続する複雑な地形に建設されたため、団地内には急な坂道や階段が多く存在します。この地形を活かした配置計画は、平坦な山崎団地とは異なり、棟が不規則に配置され、変化に富んだ景観を生み出しています。公団住宅の設計試行を兼ねたと見られ、他ではあまり見られない独特のデザインや間取りを持つ棟が複数点在し、建物間の空間が、それぞれに趣のある庭のような様相を呈している場所も多いです。

設計思想としては、「近隣住区論」に基づいたゾーニングが採用されており、不要な車両の通り抜けを防ぐための外周路の配置や、歩行者のみで日常生活を完結させることを意図した構造により、周辺地域から一定程度分離されています。特に、藤の台団地特有の激しい起伏により外周路には多くの法面（中には断崖のような急斜面も含む）が設けられており、他の団地と比べて、外周路を周辺住民と共有する形での住宅開発が進みにくい状況にあることも、建設当初からの景観を比較的良好に保ち、団地内部に強いコミュニティの一体感を育む要因の一つとなっています。

歴史と現状

団地は入居開始から50年以上が経過しており、その間に様々な変化がありました。入居40周年を迎えた2010年の夏祭りでは記念コンサートや記念誌制作が行われるなど、節目には団地全体でのイベントが開催されました。春には「さくらまつり」、夏には「盆踊り・夏祭り」が開催され、近隣地域からも多くの人が訪れて賑わいますが、周辺の団地と開催時期が重なると人出が分散する傾向も見られます。

一方で、少子高齢化の影響は顕著で、家庭構成員（いわゆる家族）の減少に伴い、団地全体の人口は約4.5千人（2024年現在）まで減少しています。子供の独立や家族との死別などにより、高齢者の単身世帯も多くなっています。また、町田駅周辺の発展などの影響もあり、団地内の商店街には空き店舗が目立つようになっています。

街区ごとの詳細

藤の台団地は主に3つの街区に分かれています。住棟は商店街の一部を除き、すべて5階建てのエレベーターなしの中層階段室型住棟です。総戸数は賃貸が2,227戸、分譲が1,199戸です。

1街区: 主にUR賃貸住宅で構成されます。多様なデザインや間取りの棟が存在します。団地の中央に位置する商店街もこの街区に属し、スーパーマーケット（現在はAコープが2025年2月まで入居）、郵便局、銀行ATM、診療所、保育園などが集まっています。商店街の建物も半円形など特徴的な形をしています。
2街区: 分譲住宅として、藤の台団地2街区住宅管理組合による自主管理が行われています。築年数が50年以上ながら、自主管理による頻繁な維持管理により、UR管理の賃貸街区よりも良好な状態を保っています。地形に合わせて「上のほう」「奥のほう」「下のほう」などと呼ばれるエリアに分かれており、集会所や管理事務所もこの街区にあります。
* 3街区: 一般的なUR賃貸住宅で構成されます。街区内に町田市立藤の台小学校があり、北側には町田市立薬師中学校が隣接しています。

かつて藤の台団地の住所表記は、長年にわたり地番整理や住居表示が実施されておらず、複雑な地番が入り混じり、公式な場合以外では住所を省略して表記することが一般的でした。しかし、2020年 7月25日に住居表示が実施され、1街区は藤の台一丁目、2街区は藤の台二丁目、3街区は藤の台三丁目となり、住所が整理されました。団地敷地外ではありますが、周辺に戸建て住宅の開発も見られます。

交通と歩行空間

団地内の交通は、神奈川中央交通のバスが主要な手段です。団地内に「藤の台団地」バス停があり、町田駅（バスセンター）や鶴川駅、古淵駅など主要駅へのアクセスが可能です。町田バスセンターからは約15分で到着し、日中はおおよそ15分間隔で運行されています。早朝や深夜を除き、バス停周辺はタクシーの待機場所としても利用されています。

多摩ニュータウンや町田山崎団地と同様に、藤の台団地でも車両と歩行者の分離が図られています。各街区を隔てる道路を横断することなく移動できるよう、起伏を活かしたアンダーパスや歩道橋が整備されています。特に、団地の中央を通るバス通りに架かる2本の歩道橋は、街区を結ぶ象徴的な存在です。これらに連なる歩行者専用道路が団地内を巡り、起伏のある地形と相まって団地特有の景観を形成していましたが、近年の駐車場増設に伴い、一部の緑地や歩道が失われています。金井小学校への通学路確保のため、後に金井歩道橋も整備され、都道の開通に伴い延長されています。

周辺と歴史

団地の周辺には、町田山崎団地や町田木曽住宅といった他の大規模団地群、薬師池公園四季彩の杜、町田リス園などの施設があります。団地内にも、前述の商店街施設のほか、小学校や中学校、交番など、生活を支える施設が配置されています。

また、藤の台団地の建設に先立ち、1960年代後半には大規模な遺跡発掘調査が行われました。この地域は本町田遺跡群と呼ばれ、主に縄文時代早期から中期にかけての集落跡などが確認されています。遺跡の一部であるA地点は、本町田遺跡公園として整備・保存されており、東京都指定文化財となっています。団地入居当初には、住民が日向山斜面で縄文土器の破片や石器を発見するエピソードもあり、町田市立博物館（当時は町田郷土資料館）が持ち込まれた遺物の鑑定に応じた記録も残っています。

団地ゆかりの人々

藤の台団地には、著名人も居住した経験があります。アナウンサーの笠井信輔氏は幼少期から団地に住み、薬師中学校では生徒会長を務めていました。また、俳優の小林稔侍氏もかつてこの団地に居住しており、転居後も団地に深い思い入れを持ち、度々訪れていると語っています。テレビ番組で団地の写真を紹介するなど、その思いを伝えています。

藤の台団地は、大規模住宅の歴史、地形を活かした都市計画、そして人々の暮らしの変遷を今に伝える、個性豊かな団地と言えるでしょう。

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