蘇水峡橋

蘇水峡橋

岐阜県加茂郡八百津町、風光明媚な木曽川の流れに、一本の橋が架かっています。それが、蘇水峡橋です。この橋は、岐阜県道358号井尻八百津線の一部を構成する橋梁として、地域の交通を支えています。しかし、この橋の歴史を紐解くと、単なる道路橋ではない、興味深い過去が見えてきます。

蘇水峡橋の起源は、戦後に行われた大規模な国家プロジェクトである丸山ダムの建設事業にあります。巨大なダムを建設するには、膨大な量の資材を建設現場まで運ばなければなりません。そのための輸送手段として計画され、敷設されたのが「丸山水力発電所工事用専用鉄道」、略して「丸山水力専用鉄道」と呼ばれる産業用鉄道でした。蘇水峡橋は、この専用鉄道が木曽川を渡るために架けられた重要な構造物、すなわち鉄道橋梁だったのです。

丸山水力専用鉄道の建設計画は、太平洋戦争中の1943年（昭和18年）に日本発送電によって開始されました。しかし、戦局の悪化に伴い、残念ながら工事は中断されてしまいます。終戦を迎え、日本の復興が進む中で、丸山ダムの建設は関西電力株式会社に引き継がれました。1951年（昭和26年）に関西電力によって工事が再開され、中断されていた専用鉄道の建設も進められました。その結果、木曽川を跨ぐ鉄道橋梁は1953年（昭和28年）に完成を迎えます。

この専用鉄道は、主に丸山ダム建設現場へ資材を運搬する役割を担っていました。当時、資材は遠くから鉄道を利用して運ばれてきました。具体的には、現在のJR太多線にある可児駅（当時は国鉄広見駅）まで運ばれた資材は、そこから名古屋鉄道の広見線、そして八百津線を経由しました。名鉄八百津線の終点である八百津駅から、いよいよ丸山水力専用鉄道に積み替えられ、木曽川橋梁を渡ってダム建設地へと運ばれていったのです。この複雑なルートは、当時の物流がいかに工夫されていたかを示しています。

1954年（昭和29年）、丸山ダムが無事完成し、丸山水力専用鉄道はその役目を終えて廃止されました。しかし、木曽川に架けられた堅牢な鉄道橋梁は、取り壊されることなく、一般の道路橋へと転用されることになりました。鉄道が走っていた軌道は撤去され、代わりに舗装されて自動車や歩行者が通行できるように改修が行われたのです。こうして、鉄道橋として生まれた橋は、新たな命を得て「蘇水峡橋」として地域の交通を支えることになりました。道路橋としての供用が開始されたのは、鉄道廃止と同じ1954年のことです。

蘇水峡橋は、橋桁の上にアーチ部材を持つ上路式ランガー橋という構造形式を採用しています。橋の長さは95.2メートル、幅員は4.5メートルと、現代の基準ではやや狭い部類に入りますが、これはかつて単線の鉄道が通っていたことに由来しています。八百津町の錦織地区と八百津地区を結ぶこの橋は、ダム建設という歴史的な事業を支えた産業遺産であり、廃線跡が有効活用された例としても価値があります。木曽川の景観に溶け込みながら、今も静かにその役割を果たし、地域の歴史を伝えています。

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