蘭方医学

蘭方医学について

蘭方医学（らんぽういがく）は、主に江戸時代の日本でオランダを通じて伝わった西洋医学です。これは、長崎の出島に駐在していたオランダ商館医によって広められ、医学的な知識や治療法が日本に根付くようになりました。 蘭方医学は、時には紅毛流医学（こうもうりゅういがく）や紅毛流外科とも呼ばれることがあります。

蘭方医学の起源と交流

蘭方医学は1641年に設立された出島オランダ商館から始まりました。この商館には、期間を通じて63名の医師が勤務し、商館員の治療を行うだけでなく、長崎奉行の許可を得て日本人患者の診療も担当していました。出島でのオランダ商館医と日本の医師との交流は、限られた場所で行われていましたが、その知識は日本の医学に深い影響を与えました。

当初は、骨折や傷の処置といった外科的な治療が中心でしたが、17世紀中頃からは体液病理学や多様な薬方が紹介され、写本や印刷物を通じて広がっていきました。この時期の代表的な西洋医師には、カスパル・シャムベルゲル、ヘルマヌス・カツ、ダニエル・ブッシュ、エンゲルベルト・ケンペル、カール・ペーテル・ツュンベリー、フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトなどがいます。特に、シーボルトは幕末に種痘の成功に寄与したことで評価されており、蘭方医学への興味が高まりました。

日本の医学との交流

オランダ商館医との交流を仲介したのは、オランダ通詞から派生した外科の流派「オランダ流外科」です。この流派の他にも、西流や楢林流外科、吉雄流外科などの流派が形成され、特に杉田玄白の『解体新書』の翻訳は蘭方医学への関心を一気に引き上げました。また、宇田川玄随の訳書『内科選要』も、従来外科に限られていた蘭方医学を他の内科知識まで拡げるきっかけとなりました。

しかし、江戸時代全体を見渡すと、依然として日本の医療界では漢方医学が主流でした。この時代、漢方医が2万人存在する一方で、蘭方医は約5千人とされ、外科手術や臨床医療に関する教育はシーボルトの影響を受け始めるまでほとんど行われていませんでした。

近代医学の基礎としての蘭方医学

開国後の安政4年（1857年）、江戸幕府は長崎海軍伝習所の医学講師としてヨハネス・ポンペ・ファン・メーデルフォールトを招きました。これにより、日本における自然科学に基づく体系的な近代医学教育が始まりました。さらに、4年後には蘭方専門の医療機関である長崎養生所が設立されるなど、蘭方医学は近代日本における西洋医学の導入に重要な役割を果たしました。

蘭方医学は単なる医療技術の伝達だけでなく、日本の医療体系において西洋医学を根付かせる契機となったのです。

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