虚栗

『虚栗（みなしぐり）』は、江戸時代前期の俳人、宝井其角によって編纂された俳諧撰集です。1683年（天和3年）6月に江戸の西村半兵衛と京都の西村市郎右衛門によって出版され、松尾芭蕉が跋文を寄せています。この撰集は、其角にとって最初のものとして位置づけられています。

概要

『虚栗』には、発句、歌仙、三つ物、二五句など、多様な形式の俳諧が収められています。作者は、其角自身や服部嵐雪、杉山杉風といった芭蕉門下の俳人たちに加え、貞門派や談林派といった、当時の様々な流派の俳人たちの作品も含まれています。

芭蕉の跋文には、李白や杜甫が酒を味わい、寒山が粥を啜り、西行が山家を訪ね、白楽天が歌を仮名にしたように、古典や漢詩文の世界への憧憬が込められています。特に、李白・杜甫・寒山・西行・白楽天といった中国や日本の古典文学の大家たちが理想として掲げられています。

『虚栗』の特徴として、漢語の多用、字余り、破調などが挙げられます。これらの要素が組み合わさることで、独特の格調高い表現が生み出され、後に「虚栗調（漢詩文調）」と呼ばれるようになりました。これは、従来の俳諧の形式にとらわれず、漢詩文の要素を取り入れた、新しい表現の試みであったと言えるでしょう。

しかし、芭蕉自身は、荘子の思想を引き合いに出し、虚実の区別を超えた自由な表現を評価する一方で、未熟な点も指摘しています。このことは、『虚栗』が、革新的な試みであると同時に、発展途上の段階にあったことを示唆しています。

まとめ

『虚栗』は、宝井其角の俳諧に対する意欲と、芭蕉の指導のもと、新しい表現を追求した結果として生まれた撰集です。収録された俳句や芭蕉の跋文を通して、当時の俳諧の世界における革新的な試みや、古典文学への憧憬を垣間見ることができます。参考文献として、岡本勝、雲英末雄『近世文学研究事典』や佐藤勝明 編『21世紀日本文学ガイドブック5：松尾芭蕉』などが挙げられます。

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