虻田町

北海道虻田町：洞爺湖と有珠山のふもとに栄えた町

虻田町は、北海道南西部の胆振支庁管内虻田郡に存在した町です。周囲を内浦湾（噴火湾）と洞爺湖という、雄大な自然に囲まれた場所に位置していました。特に洞爺湖温泉は、町を代表する観光地として、多くの観光客を魅了しました。また、東隣に位置する壮瞥町の有珠山、昭和新山へのアクセス拠点としての役割も担い、北海道有数の観光地としての地位を確立していました。本項では、2006年3月27日の廃止時点での虻田町について記述します。

地理

虻田町は、胆振支庁の西部、内浦湾の北岸に広がっていました。長万部町と室蘭市のほぼ中間地点に位置し、道央自動車道、国道37号、JR室蘭本線が海岸沿いを走っていたため、重要な交通の要衝をなしていました。さらに、札幌市から中山峠を越える国道230号の終点でもあり、陸路からのアクセスも良好でした。

町の西部は、洞爺湖カルデラ壁から連なる険しい地形が海に迫り、海食崖を形成していました。そのため、道路や鉄道は多くのトンネルを貫通して建設されていました。一方、南部は赤川や板谷川などの河川が形成した平地が広がり、砂浜海岸も存在していました。町の役場や洞爺駅のある栄町地区はこの平地の北西部に位置していました。

虻田町の南端から伊達市有珠町にかけては、噴火湾では珍しい入り組んだ複雑な海岸線が特徴的です。これは、約7000年前の有珠山の大規模な噴火による噴出物が海に流れ出したことで形成された地形であり、岬状に突き出た部分の影に虻田漁港が造られていました。

北東部の洞爺湖に面した地域との間には、急峻なカルデラ壁が広がり、国道230号は大きく蛇行しながら湖岸へと下っていました。1910年の有珠山噴火後に発見された洞爺湖温泉は、湖南岸に多くの大型ホテルが立ち並ぶ観光地として発展しました。西岸の月浦地区や高台の花和地区、そして隣接する洞爺村や豊浦町にかけては、牧場が点在していました。

ほぼ円形の洞爺湖は、洞爺カルデラ内に形成された湖で、中央に位置する中島を中心に、虻田町、洞爺村、壮瞥町の3町村にまたがっていました。虻田町の区域は、湖の南西約4分の1弱と、弁天島全域、中島と観音島の一部を含んでいました。洞爺湖は海に非常に近いにもかかわらず、湖面標高は約84mと高く、この高低差を利用した水力発電（出力19,500kW）が、町の中心市街地に近い青葉町で行われていました。

気候は海洋性で、冬でも温暖で積雪が少ないのが特徴でした。

主要な河川、山、湖沼

山: 小有珠 (557m)、三角山 (310m)
河川: 板谷川（二級河川）、トコタン川（準用河川）、赤川、入江川、ホロナイ川、小花井川
湖沼: 洞爺湖

隣接自治体

伊達市
壮瞥町
洞爺村
豊浦町

地名の由来

「アブタ」という地名は、アイヌ語が起源であるとされています。いくつかの説があり、「アプタペッ」（釣り針を作る川）や「ハプタウシ」（いつもウバユリの球根を掘るところ）といった意味が考えられています。

歴史

先史時代

虻田町の南部、入江地区の高台には入江貝塚と高砂貝塚（国の史跡）が存在し、縄文時代からこの地域に集落があったことを示しています。これらの貝塚からは、貝殻だけでなく、海獣や魚の骨、そして人骨も多く発見されています。

アブタ・コタン時代

「アブタ」という地名は、1704年の廻国僧正光空念の記録にも「あふた」として登場します。また、アブタ集落の長「ヤいれんが」という人物名も記録に残っています。

アブタ地域に集落が登場する最古の文献は、津軽藩の史書『津軽一統志』で、1669年のシャクシャインの蜂起に関する記述の中に「おこたらへ」という旧称で登場します。翌年の記録では、14～15軒のアイヌの住居があったと記されています。

松前藩の支配下となった後、アブタ・コタンには「アブタ場所」が設置されました。「場所」とは、松前藩が家臣にアイヌとの交易権を与えた知行地のことです。アブタ場所には、アブタ・コタンの他にいくつかのアイヌの集落があり、アブタ・コタンはこれらの集落の中心的な存在でした。交易品には、昆布、ニシン、干し鮭、イリコ（干しナマコ）などがありました。特にイリコは江戸時代後期には中国へ輸出され、珍重されていました。

和人定住と有珠山の噴火

和人が虻田に定住し始めたのは、1799年以降です。蝦夷奉行の戸川安論は、蝦夷産の馬の質の良さに注目し、幕府に直轄牧場の開設を提案、1805年に有珠・虻田牧場が開設されました。この牧場は、蝦夷地各地に良質な馬を供給する重要な役割を担いました。しかし、1822年の有珠山の大噴火により、アブタ・コタンは壊滅的な被害を受けました。多くのアイヌの人々と和人が犠牲となり、アブタ・コタンは廃村となりました。有珠・虻田牧場も大きな被害を受けましたが、残った馬によって存続され、1870年まで馬の供給と改良を続けました。

明治以降

明治時代に入ると、虻田は開拓使の管轄下となり、北海道の一部となりました。その後、虻田村に虻田郡各村戸長役場が置かれ、明治30年前後からは羊蹄山麓の開拓に伴い、周辺地域が分村していきました。虻田市街は、内陸部への開拓者の中継地や物資集散地として発展しました。

有珠山は、その後も度々噴火を繰り返しました。1910年の噴火では、洞爺湖岸に温泉が湧出し、虻田町の発展に大きく貢献しました。2000年の噴火では、正確な噴火予知により人的被害はゼロでしたが、町は大きな被害を受けました。しかし、比較的迅速な復興が行われ、噴火を観光資源として活用する試みもなされました。

洞爺湖温泉

洞爺湖温泉は1917年に発見されました。1910年の有珠山噴火の影響で湧出したと考えられ、その後、多くの旅館が建設され、温泉街として発展しました。昭和新山の出現や支笏洞爺国立公園の指定なども相まって、洞爺湖温泉は観光客を多く集めるようになりました。

行政

虻田町は、隣接する豊浦町、洞爺村と合併協議を進めていましたが、住民投票の結果、豊浦町が離脱。最終的には、洞爺村との合併により、2006年3月27日に洞爺湖町となりました。

経済

虻田町の産業は、観光関連産業に大きく依存していました。洞爺湖温泉を中心としたサービス業や小売業が盛んであり、第一次産業は比較的小規模でした。かつては虻田鉱山で褐鉄鉱が採掘されていましたが、1971年に閉山しています。

教育

高校：北海道虻田高等学校（道立）
中学校：2校
小学校：3校

交通

虻田町は、新千歳空港、JR室蘭本線洞爺駅、道央自動車道虻田洞爺湖インターチェンジ、国道37号、国道230号などにアクセスできる便利な立地でした。

観光

洞爺湖温泉、火山科学館、西山火口散策路、洞爺湖森林博物館、入江貝塚公園など、多くの観光スポットが存在していました。また、洞爺湖ロングラン花火大会なども開催されていました。

まとめ

虻田町は、豊かな自然と温泉、そして歴史に彩られた町でした。2006年の合併により消滅しましたが、その歴史と文化は、洞爺湖地域に受け継がれています。

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