昭和新山

昭和新山：誕生の記録と人々の記憶

昭和新山は、北海道有珠郡壮瞥町に位置する火山であり、同時にその場所の地名でもあります。支笏洞爺国立公園内にあり、国の特別天然記念物に指定されています。また、有珠山と共に日本の地質百選に選ばれており、周辺地域はユネスコ世界ジオパークである洞爺湖有珠山ジオパークの一部です。

大戦下の誕生

昭和新山は、昭和19年（1944年）に始まった火山活動によって隆起しました。当時、日本は太平洋戦争の最中にありましたが、壮瞥郵便局長であった三松正夫が、詳細な観測記録（ミマツダイヤグラム）を残しました。この記録は、火山形成の過程を詳細に記録した人類史上唯一の例として、非常に価値のあるものとされています。また、昭和新山は私有地であり、三松正夫の孫娘と結婚した三松正夫記念館館長の三松三朗が、2022年時点でその土地を所有しています。ちなみに、昭和新山の命名者は、日本の地球物理学の先駆者である田中舘愛橘の養子、田中舘秀三です。

特徴的な地質

昭和新山は、有珠山の側火山であり、デイサイト質の粘性の高い溶岩によって溶岩円頂丘が形成されています。形成当初の標高は400メートルを超えていましたが、温度低下や侵食の影響により、現在は398メートルまで縮小しています。有珠山の麓にあった平地に火山が形成されたため、山肌が赤色に見えるのは、かつての土壌が溶岩の熱で焼かれて煉瓦のように固まったためです。また、川によって運ばれ、平地の地下に埋まっていた石が溶岩によって持ち上げられたため、昭和新山の中腹には、河原にあるような丸い石が転がっているという珍しい光景も見られます。なお、形成当初は不毛の土地でしたが、現在では植物がわずかに生息しています。昭和新山は私有地にあるため、特別な許可なしに立ち入ることはできません。

誕生の背景

噴火活動前

かつてこの地域は、「東九万坪」という広大な畑作地帯であり、壮瞥川の川沿いには「フカバ」という集落がありました。集落の名前は、鮭や鱒の孵化場があったことに由来します。のどかな田園地帯でしたが、山の隆起と共に集落は消滅しました。その痕跡は、崩壊した国鉄胆振線の橋脚跡などに残っています。

昭和新山誕生までの噴火活動

昭和18年（1943年）12月28日午後7時頃、壮瞥町周辺で最初の有感地震が発生し、その後、地震が頻発しました。昭和19年（1944年）1月4日には、フカバ集落の湧水の温度が上昇し、20℃から43℃に達しました。1月5日には、洞爺湖に巨大な渦巻きが発生し、同日、レールの隆起により胆振線が不通となりました。2月から5月にかけて、フカバ集落、柳原集落、東九万坪、西九万坪一帯で隆起活動が続きました。中でも柳原集落は、前年比で31メートルも隆起しました。6月23日午前8時15分、東九万坪台地より第1次大噴火が発生し、第1火口が形成されました。その後も噴火活動は活発に続き、降灰による被害も発生しました。12月には溶岩ドームの推上が始まり、昭和20年（1945年）9月20日に全ての活動が停止しました。

噴火観測と保護

昭和新山は、有珠山と共に気象庁による常時観測火山に指定されています。山への立ち入りは禁止されており、特別な許可がなければ入山できません。昭和新山は、三松正夫によって詳細な観測記録が残され、その記録は「ミマツダイヤグラム」として、火山の形成過程を人類が詳細に記録した唯一の例として高く評価されています。三松は、この世界的に貴重な火山を保護し、家や農場を失った住民の生活を支援するために、山になってしまった土地を買い取りました。そのため、昭和新山は三松家の私有地であり、世界でも珍しい私有地にある火山となっています。1951年に国の天然記念物に指定され、1957年には特別天然記念物に指定されました。山麓には三松正夫記念館があり、三松による観測記録の資料が展示されています。

近隣情報

昭和新山周辺には、洞爺湖や壮瞥温泉などの観光スポットがあります。また、麓では雪合戦「昭和新山国際雪合戦」が開催され、北海道遺産の一つに選定されています。

アクセス

道央自動車道伊達IC・虻田洞爺湖ICからともに車で約15分。

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