衣笠城合戦

衣笠城合戦：源平合戦の序章

衣笠城合戦は、治承4年（1180年）8月26日に、現在の神奈川県横須賀市衣笠町にあった衣笠城を舞台に、源氏方の三浦氏と平家方の秩父氏との間で繰り広げられた戦いです。この戦いは、源頼朝が挙兵した治承・寿永の乱における初期の重要な戦いの一つであり、その後の源平合戦の展開を大きく左右しました。

合戦の背景

源頼朝の挙兵に呼応した三浦義澄率いる三浦一族は、頼朝軍と合流しようとしましたが、大雨による増水のため合流できず、石橋山の戦いで頼朝軍が敗北したことを知ると、三浦へ引き返しました。一方、平家方の武将である畠山重忠は、頼朝挙兵の報を受け、三浦一族を討つべく出陣。由比ヶ浜での小競り合い（小壺坂合戦、小坪合戦）を経て、三浦氏の本拠地である衣笠城を攻撃することになりました。

合戦の経過

三浦氏と畠山軍の衝突は、小坪合戦で始まりました。この戦いで、畠山軍は大きな損害を受け退却しました。しかし、畠山重忠は、由比ヶ浜での敗北の雪辱を果たすべく、河越重頼や江戸重長らの秩父一族を率いて三浦氏の本拠地である衣笠城を攻めます。三浦方は、東木戸口を三浦義澄・佐原義連、西木戸口を和田義盛・金田頼次、中の陣を長江義景・大多和義久が守備しました。しかし、数に勝る秩父軍の猛攻の前に、三浦軍は防戦一方となります。

先の合戦で疲弊していた三浦氏は、夜になって衣笠城を放棄し、安房国へと脱出。翌日、衣笠城は秩父軍によって落城しました。この際、89歳という高齢の三浦大介義明は、城に残り、外孫である畠山重忠らに討たれたとされています。

『吾妻鏡』によると、義明は「源氏再興のために命を捧げたい」という決意を述べていたとされています。一方、『源平盛衰記』では、義明は郎党に手輿で城から連れ出されるも、敵が近づくと郎党は逃亡。義明は衣裳を剥ぎ取られ、江戸重長に斬殺されたと記されています。義明が城に残っていたら、これほどの無念はなかっただろうと、その死を悼んでいます。

合戦後

安房国で頼朝軍と合流した三浦一族は、千葉常胤・上総広常らの協力を得て大軍となり再挙。武蔵国に入ると、畠山重忠、河越重頼、江戸重長らの秩父一族は頼朝に降伏しました。頼朝は、かつて敵対した秩父氏を受け入れ、その力を取り込むことで、勢力を拡大しました。

経緯の考察

『源平盛衰記』では、畠山氏が頼朝と敵対したのは、当主の畠山重能が在京していたためとされています。しかし、実際には、畠山重忠は三浦氏を攻撃する意図はなく、由比ヶ浜での合戦は突発的なものであったとされています。ただし、河越重頼や江戸重長がすぐに重忠に加勢したことや、衣笠城落城後に大庭景親が軍勢を率いて攻め寄せていることから、三浦攻めは平家への義理や外聞だけではない、強い動機があったと考えられます。

近年では、畠山重忠と三浦義明の間に血縁関係があったとする説も提唱されています。この説によれば、重忠は義明の娘を母とする嫡男であり、義明は重忠にとって外祖父にあたるとされています。しかし、実際には血縁関係は薄く、重忠が三浦氏を攻撃することを制約する要素はなかったとされています。

史跡

衣笠城合戦の舞台となった場所には、現在も慰霊碑や遺跡が残っています。JR衣笠駅バスターミナル前には、合戦で亡くなった人々を慰霊する碑が建てられており、多くの人々が参拝に訪れます。また、衣笠城址では城郭遺構は確認されていませんが、築城や籠城の準備をする時間がなかったためと考えられています。

衣笠城址近くの横須賀市大矢部には、義明が落ち延びる際に愛馬が動かなくなった場所があるとされ、その場所に生えていた松は「腹切り松」と呼ばれています。現在、この松は場所を移され、児童公園「腹切り松公園」の一角に保存されています。

まとめ

衣笠城合戦は、源平合戦の序盤における重要な戦いであり、三浦氏の滅亡と、源頼朝が関東を制覇する足がかりとなりました。この戦いは、武士たちの複雑な人間関係や、戦国時代の武士の生き様を今に伝える貴重な歴史遺産となっています。

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