西宮新六

西宮新六：江戸時代の地本問屋とその系譜

江戸時代、江戸の地本問屋として名を馳せた西宮新六。その生涯と活動は、当時の出版業界の一端を垣間見せてくれる貴重な資料です。本稿では、初代から2代目へと続く西宮新六家の足跡を、彼らが出版に関わった作品や歴史的事実を交えながら詳細に解説します。

初代西宮新六：宝暦から文政期にかけての活躍

初代西宮新六の生没年は不明ですが、宝暦から文政期にかけて、江戸の茅場町薬師前、後に本材木町で地本問屋を営んでいました。屋号は翫月堂、春松軒。当時流行していた様々な出版物を手掛け、その中には著名な絵師の作品も含まれていました。

特に、鳥居清満の紅摺絵、鈴木春信の紅摺絵、そして歌川国貞の錦絵などを出版したことは、初代西宮新六の事業規模と影響力の大きさを示しています。これらの作品は、現代においても高い評価を受けており、浮世絵史において重要な位置を占めています。

しかし、初代西宮新六の経営は順風満帆ではありませんでした。寛政11年（1799年）、式亭三馬作の『侠太平記向鉢巻』出版に関連した事件に巻き込まれ、鳶の人足集団「よ組」からの襲撃を受け、過料を科せられるという事態に直面しています。この事件は、当時の社会情勢や出版業界を取り巻く状況を知る上で重要な手がかりとなります。

文政7年（1824年）に刊行された『江戸買物独案内』には、西宮新六の地本問屋としての記載があり、取り扱い商品として「義太夫抜本・絵艸子類」が挙げられています。この記述から、西宮新六が錦絵だけでなく、草双紙や滑稽本など、幅広いジャンルの出版物を扱っていたことが分かります。

二代目西宮新六：戯作への才能と家業の継承

2代目西宮新六は、初代の跡を継ぎ、地本問屋を営みながら、自身も文筆の才能を発揮しました。式亭三馬に師事したとされ、西窗庵、福亭禄馬、楽亭西馬、夷福亭宮守といった複数の雅号を用いて戯作を発表しています。これは、当時の出版業界では珍しくなかった、版元が自ら作品を創作する事例の一つと言えるでしょう。

しかし、文政12年（1829年）の火災によって、西宮家は大きな打撃を受けました。家は衰退し、2代目西宮新六は京橋水谷町に移住。久兵衛と改名し、家主となり、その後は傭書と戯作を主な生業として過ごしたと伝えられています。享年60歳、安政5年（1858年）8月14日に没しました。

西宮新六と出版された作品

西宮新六が関わった出版物の中から、特に代表的な作品を以下に挙げます。

鳥居清満『湯上り』: 宝暦期に出版された柱絵紅摺絵。
鈴木春信『とみよしや前』: 宝暦後期から明和初期にかけて出版された細判紅摺絵。
歌川国貞『寄三津再十二支』: 文化11年（1814年）に出版された大判2枚続錦絵。
歌川国貞『当世三十二相』: 文政前期に出版された大判錦絵揃物。

これらの作品は、いずれも当時の人々に愛された作品であり、現代においても浮世絵研究において重要な資料となっています。

まとめ

初代、2代目と2代にわたって活躍した西宮新六は、江戸時代の出版文化に貢献した重要な存在でした。地本問屋として、数多くの作品を世に送り出しただけでなく、2代目は自身も文筆家として活躍するなど、多様な才能を発揮しました。彼らが出版に関わった作品群は、現代にいたるまで多くの人々に感動を与え続けており、その功績は高く評価されるべきでしょう。今後の研究によって、西宮新六に関するさらなる情報が明らかになることが期待されます。

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