西川祐信

西川祐信：京の浮世絵師、理知的な美の追求者

西川祐信（にしかわ すけのぶ、1671年-1750年）は、江戸時代前期から中期にかけて活躍した、卓越した才能を持つ絵師です。主に京都で活動し、絵本制作に多くの時間を費やしたため、江戸を中心とした一枚摺りの浮世絵の歴史においては、やや影の薄い存在として語られることが多いかもしれません。しかし、祐信は、それまでの当世風俗描写が主流だった浮世絵の世界に、新たな息吹を吹き込みました。

祐信は、単なる風俗画にとどまらず、古典文学からの引用や、洗練された表現技法を用いることで、知性と感性が見事に調和した、独特の美意識を追求しました。その洗練された画風は、後世の多くの浮世絵師たちに大きな影響を与え、京坂の浮世絵界を牽引する存在となりました。

生涯と画業

祐信は京都で、医術を営む西川家の三男として生まれました。その後、西園寺致季の家人となり、「右京」と称しました。絵の才能に恵まれた祐信は、狩野派の狩野永納、土佐派の土佐光祐に師事し、さらに菱川師宣や吉田半兵衛といった、当時の著名な絵師たちの画風も取り入れながら、独自の画風を確立していきました。

柔らかな筆致と、落ち着きのある丸顔の女性像を描くことに長けており、彼の美人画は高く評価されました。宝永5年（1708年）刊行の『本朝古今新堪忍記』の挿絵が、現存する最古の署名入り作品とされています。元禄後期からは、八文字屋本の挿絵を数多く手がけ、狂言本や評判記、浮世草子など、多様なジャンルで活躍しました。

祐信の代表作として知られるのは、享保8年（1723年）に刊行された墨摺りの風俗絵本『百人女郎品定』です。皇后から湯女まで、あらゆる階層の100人の女性を、生き生きとした筆致で描き分けたこの作品は、大きな話題を呼び、祐信の名声を京大坂のみならず江戸にも広めました。この成功を機に、祐信は多くの絵本を制作し、上方絵、特に絵本のレベルを飛躍的に向上させることに貢献しました。

また、享保年間には「大和絵師西川祐信」という落款を使用するようになり、数多くの好色絵本も制作しました。そのため「西川絵」という別称が春画に用いられるほどになり、唐画に対抗して大和絵の自立を強く意識していたことがうかがえます。しかし、上方では当時一枚摺り版画は一般的ではなく、祐信による一枚物の錦絵は現存していません。

作品と評価

祐信の作品は、絵本に留まりません。『役者口三味線』や『絵本浅香山』といった役者評判記や、絵手本『絵本倭比事』、『絵本玉かづら』、『絵本常盤草』、『絵本千代見草』など、生涯で百数十種300冊にも及ぶ絵本を制作しました。『絵本倭比事』の第10巻には、祐信自身の絵画論が記されています。

同時代の柳沢淇園は、祐信を「浮世絵の聖手」と絶賛し、その高い評価は、彼の作品が後世に与えた影響の大きさを示しています。実際、江戸の浮世絵版画において、奥村政信、石川豊信、鈴木春信といった巨匠たちに、祐信は多大な影響を与えました。肉筆画においても、「三美人図」など、京の独特の気品を感じさせる優れた作品を残しています。

享年80歳で没した祐信は、京都市三条通大宮西入の妙泉寺に埋葬されました。その功績は、京坂の浮世絵界のみならず、日本の絵画史においても重要な位置を占めていると言えるでしょう。彼の作品からは、理知と感性、そして時代の息吹が感じられ、今もなお多くの人々を魅了し続けています。

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