西村真琴

西村 真琴（にしむら まこと）

日本の生物学者、教育者、発明家、社会事業家。明治16年（1883年）3月26日に長野県東筑摩郡里山辺村（現在の松本市）に生を受け、昭和31年（1956年）1月4日に72歳でその生涯を閉じた。

生い立ちと学問への志

父・源逸は幕末期に庄屋を務め、明治維新後は農業を営みながら村会議員や町村連合会議長として地域社会に貢献した人物である。真琴は幼くして父を亡くし、兄も医学を学ぶため上京していたため、母の内職を支えながら学舎に通う苦学生活を送った。里山辺小学校を経て旧制松本中学（現・長野県松本深志高等学校）に進学。この頃、同校の教諭から助言を受け、自然科学の道を志すようになる。

教育者・研究者としての歩み

旧制松本中学を卒業後、広島高等師範学校（現・広島大学）の博物学科で学びを深めた。卒業後は京都府の小学校長を経て、明治42年（1909年）には満州へ渡り、南満州遼陽小学校長を務める。その後、南満医学堂で生物学教授として教壇に立つ傍ら、研究活動にも従事した。同じ年の従妹である手塚かずをと結婚している。

海外での探求

大正3年（1914年）、ハバロフスクの博覧会を視察した際に現地の植物博物館を訪れたことがきっかけとなり、欧米でのさらなる学びを志す。翌大正4年（1915年）、妻子を満州に残して私費で渡米。コロンビア大学植物学専攻科に入学した。研究への情熱は尽きることなく、満州から持参した爬虫類が縁となり、ニューヨークのアメリカ自然史博物館で約5年間、爬虫類の調査や北米大陸の植物分布に関する調査、標本作成に携わった。大正9年（1920年）にはコロンビア大学で博士号（Ph.D.）を取得。さらに、文部省の命を受けて1年2カ月間、アメリカ、スウェーデン、ノルウェーにて水産植物学や浮遊生物学の研究を行った。

北海道帝国大学での業績

帰国後、大正10年（1921年）に北海道帝国大学附属水産専門部の教授に就任。この地で、後の代表的な業績の一つとなる阿寒湖のマリモの研究に没頭する。その成果が認められ、昭和2年（1927年）には東京帝国大学から理学博士号を授与された。

新聞人・創造者として

マリモ研究で理学博士号を取得した年、北海道帝国大学を退官し、大阪毎日新聞社に入社するという意外な転身を遂げる。新聞社では、ジャーナリストとしての視点を持ちつつ、その独創的な才能を発揮した。昭和3年（1928年）には、東洋で初めてとなる人間型ロボット「學天則（がくてんそく）」を制作し、京都博覧会に出品して大きな話題を呼んだ。また、大阪毎日新聞社と東京日日新聞社が共同で募集した懸賞論文「五十年後の太平洋」では選外佳作に入選し、札幌の文芸誌『さとぽろ』の編集長も務めるなど、その活動は多岐にわたった。

社会貢献と晩年

ジャーナリストとしての活動の傍ら、社会事業への深い関心を示したことも特筆される。昭和7年（1932年）の第一次上海事変に際して中国を訪れ、戦禍の中で飼い主を失った鳩を救出、豊中市の自宅に連れ帰ったエピソードは、その慈愛に満ちた一面を物語っている。昭和11年（1936年）には、大阪毎日新聞社会事業団内に全日本保育連盟を結成するなど、幼児教育や中国人孤児の救済にも尽力した。戦後、昭和20年（1945年）に大阪毎日新聞を退職。豊中市議会議員として当選し、議長も務めたが1年で辞職し、豊中市立中央公民館長に就任した。神戸市の大学で生物学などを教える傍ら、陶芸などの趣味にも親しんだ。昭和26年（1951年）には、文部省主催の幻燈シナリオコンクールで最優秀作品に選ばれるなど、科学啓蒙活動にも熱心だった。晩年には、阿寒湖のマリモに関する短編映画の監修も務めている。

著作と人物像

生物学、紀行、科学随筆など、幅広い分野で著作を残しており、『水乃湧くまで』『大地のはらわた』『科学随想』などの単著がある。また、編集や編著にも携わっている。多岐にわたる活動と、科学者、教育者、ジャーナリスト、社会事業家、そして芸術家といった様々な顔を持つユニークな人物像は、後の時代にも関心を集め、荒俣宏の小説『帝都物語』では登場人物としても描かれた。この作品の映画版では、実の息子であり名優として知られる西村晃が父・真琴を演じたことも語り草となっている。

墓所は東京都府中市の多磨霊園にある。

主な著作

『水乃湧くまで』
『大地のはらわた』
『科学随想』
『新しく観た満鮮』
『凡人経』
『科学綺談』

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