西浦町 (愛知県宝飯郡)

西浦町

西浦町（にしうらちょう）は、かつて愛知県宝飯郡に存在した自治体です。現在は蒲郡市の西部に位置しており、当時の西浦町の区域に概ね該当します。

地理

三河湾に突き出した西浦半島と、その内陸に広がる形原台地一帯に位置していました。三河湾に浮かぶ松島も町の区域に含まれていました。海岸線はリアス式海岸が多く見られ、知柄漁港や倉舞港といった港が点在しています。また、温暖な気候と景観に恵まれ、西浦温泉を中心とした温泉街が形成されていました。

歴史

この地域には古くから人々が定住していた形跡があり、円墳である原山1号墳や原山2号墳などが残されています。歴史的には形原郷の一部であり、形原城の西側に位置する浦であったことから「西浦」という名称が生まれたと伝わっています。文亀年間（1501年～1504年）には既に稲生港に突堤が築かれていたとされ、古くから三河湾における重要な寄港地としての役割を担っていました。

近世

江戸時代に入ると、この地の領主はめまぐるしく変わります。慶長6年（1601年）には形原松平氏である旗本の松平家信の知行地となり、元和4年（1618年）には形原松平氏が大名となったため形原藩領の一部となりました。しかし翌元和5年（1619年）には再び旗本の松平清直の知行地となり、形原に置かれた陣屋によって統治されることになります。また、西浦村で採れる良質な花崗岩は、遠く離れた名古屋城の築城にも用いられたと記録されています。

その後も領主の交代は続き、延宝元年（1673年）には幕府直轄領（天領）となり、延宝8年（1680年）には松平内匠頭乗親の知行地、正徳2年（1712年）には再び幕府領に戻ります。享保3年（1718年）には旗本の壷井氏、享保9年（1724年）には同じく旗本の巨勢至信の知行地となるなど、様々な旗本や幕府の支配下を経験しました。

近現代

明治時代初期、西浦は海運業や漁業が活発な地域となっていました。1877年（明治10年）の記録によると、大小合わせて254隻の船があり、多くの船主や漁師が活躍していました。当時の主要な港は明柄港と稲生港でした。

1889年（明治22年）10月1日、町村制の施行に伴い、宝飯郡西浦村が発足します。明治初期には農業が主な産業でしたが、近代化が進むにつれて海運業や漁業が発展していきました。村は港湾施設の整備に力を入れ、1895年（明治28年）には西浦港（旧稲生港）の船囲堤が改修され、1907年（明治40年）には西浦港の防波堤が、1916年（大正5年）には明柄港の防波堤が築造されました。

日露戦争後には、村内の官有地が民間に払い下げられることになりますが、西浦村長の岡田紋三郎は、村の財産とするために村として公債を発行してこの土地を取得しました。この土地では後に採石業が興り、また西浦温泉の観光開発にも繋がることとなります。

交通網の整備も進められました。1918年（大正7年）には西浦村と額田郡幸田村を結ぶ道路が宝飯郡道となり、公共交通機関としては1926年（昭和元年）に国鉄（現在のJR）蒲郡駅と西浦村を結ぶバス路線が、翌1927年（昭和2年）には幸田村深溝との間を結ぶバス路線が開業しました。

港湾整備は昭和に入っても続き、1920年（大正9年）には稲生港に新たな防波堤が作られ、現在の港湾に近い姿が整います。1930年（昭和5年）には稲生港と䦰港を合わせた西浦港が内務省によって指定港湾となりました。漁業の振興にも熱心で、村長の岡田紋三郎は遠洋漁業を奨励し、カツオ船やマグロ船の建造、船員向けの講習会などを開催して漁業の近代化を図りました。

1936年（昭和11年）7月24日には、三河鉄道（現在の名鉄蒲郡線）の蒲郡方面への延伸に伴い、村内に西浦駅が開業しました。そして、1944年（昭和19年）2月11日、西浦村は町制を施行し、西浦町となりました。この時、町内に新たな大字は設けられませんでした。

現代

第二次世界大戦後の1947年（昭和22年）、首長公選制導入後初めての西浦町長選挙が行われ、岡田紋三郎氏が唯一の候補者として無投票で当選しました。同年には西浦町立西浦中学校が開校し、教育環境の整備も進みました。岡田町長は1951年（昭和26年）にも無投票で再選されますが、1953年（昭和28年）の町長選挙では吉見良助氏が無投票で当選し、町政を担うことになりました。吉見町長の時代、1954年（昭和29年）からは西浦温泉の大規模な開発が始まり、西浦半島は観光地として大きく発展していきます。

1960年（昭和35年）時点での西浦町の世帯数は1378世帯、人口は6964人でした。1962年（昭和37年）には西浦港が、地方港湾である三河港の一部として指定されました。そして、1963年（昭和38年）4月1日、西浦町は隣接する蒲郡市に編入合併され、自治体としての歴史に幕を閉じました。

教育

町内には以下の学校がありました。

西浦町立西浦小学校（現在の蒲郡市立西浦小学校）
西浦町立西浦中学校（現在の蒲郡市立西浦中学校）

交通

町内を通る主要な交通路は以下の通りです。

鉄道

名古屋鉄道 蒲郡線
西浦駅

三河鉄道として開業した路線は、後に名古屋鉄道に編入され、現在に至っています。

道路

幡豆街道（形原道）

蒲郡と現在の西尾市吉良町を結ぶ主要な道路でした。

名所・旧跡・観光スポット

稲村神社
竜田天神社
八王子神社
無量寺 - 「西浦不動」の名でも知られる真言宗の寺院。
西浦温泉 - かつて「東海の熱海」とも称された温泉街です。
西浦温泉海水浴場 - 西浦温泉街に面した海水浴場。1999年に「西浦温泉パームビーチ」と改称されました。
西浦会館 - 西馬相にあった映画館。

出身者

岡田紋三郎 - 西浦村長、西浦町長を歴任。西浦地域における信用組合の設立や漁業組合の発展に尽力しました。
磯部常治 - 弁護士。第二東京弁護士会副会長などを務め、帝銀事件では平沢貞通氏の弁護を担当しました。後に銀座母娘殺し事件の被害者となります。

関連項目

愛知県の廃止市町村一覧
西浦町 (曖昧さ回避) - 他の同名の地名。

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