西澤保彦

西澤保彦：SF新本格ミステリーの旗手

西澤保彦は1960年高知県生まれの小説家、推理作家、SF作家です。高知県立安芸高等学校、米国私立エカード大学創作法専修を卒業後、高知大学経済学部教務助手や土佐女子高等学校講師などを務めながら小説執筆活動を開始しました。

初期は江戸川乱歩賞や小説現代新人賞などに挑戦。第1回鮎川哲也賞では最終候補に選ばれ、その受賞パーティーで島田荘司氏と出会い、大きな転機を迎えます。その後、1992年に仕事を辞め、執筆に専念。島田氏に見せた『解体諸因』の第一稿が講談社の目に留まり、1995年に『完全無欠の名探偵』で小説家デビューを果たしました。

SF新本格ミステリーという新境地

西澤作品の特徴は、SF的な要素を取り入れた本格ミステリーにあります。彼が確立した「SF新本格ミステリー」は、時間をループする少年の物語『七回死んだ男』（第49回日本推理作家協会賞候補）、人格が入れ替わる装置が登場する『人格転移の殺人』、瞬間移動能力を持つ主人公が登場する『瞬間移動死体』、そして触れたものの複製を作る壁が登場する『複製症候群』など、独創的な設定と緻密な論理によって謎を解き明かしていきます。これらの作品は、ロバート・J・ソウヤーのようなハードSFよりも、ピーター・ディッキンソンなどのロジック主体のミステリーに近しい作風と言えるでしょう。

西澤作品におけるSF的要素は、単なるギミックではなく、物語の核心を深く掘り下げる役割を担っています。一見すると「反則」とも思える特殊能力の存在は、その能力の規則性や限界が明確に示された上で、物語の筋書きに巧みに組み込まれています。その緻密な設計と意外性のある展開は、読者にスリリングな謎解き体験を提供します。

深い心理描写と個性的なキャラクター

西澤作品は、新本格ミステリー作家の中でも、登場人物の心理描写に深くこだわる点で異彩を放っています。これは都筑道夫の作品、特に『退職刑事』シリーズからの影響が見て取れます。彼の作品には、読者の感情を揺さぶるような、複雑で魅力的なキャラクターたちが数多く登場します。

代表作シリーズと多彩な作品群

西澤作品は、いくつかのシリーズ作品に大別することができます。

匠千暁（タック）シリーズ（タック＆タカチシリーズ）： 酒を飲むほど推理が冴える主人公、匠千暁と仲間たちによる地方大学生4人組の活躍を描いたシリーズ。卒業後のエピソードも含まれ、長期に渡る物語が展開されています。
神麻嗣子の超能力事件簿シリーズ： 見た目は中学生風美少女だが年齢不詳の超能力者・神麻嗣子が、男性ミステリー作家や美人警部らと共に超能力犯罪に挑むシリーズ。西澤作品独特の珍名ネーミングが、端役にもまで及んでいる点が特徴的です。
* 腕貫探偵シリーズ： 30万部発行のヒット作となったシリーズ。主人公の腕貫探偵の活躍は、多くの読者から支持されています。特に近年では、シリーズの最新作『異分子の彼女　腕貫探偵オンライン』が第76回日本推理作家協会賞（短編部門）を受賞するなど、高い評価を受けています。

これらのシリーズ作品以外にも、多くの単発作品を発表。ミステリー、SF、ホラーなど、様々な要素を融合させた、独自のスタイルを確立しています。

受賞歴と高い評価

西澤保彦の作品は、多くのミステリーランキングで上位にランクインしており、高い評価を得ています。代表的な受賞歴としては、第2回センス・オブ・ジェンダー賞（国内部門）特別賞、そして最新作『異分子の彼女』による第76回日本推理作家協会賞（短編部門）受賞などがあります。また、週刊文春ミステリーベスト10、このミステリーがすごい!、本格ミステリ・ベスト10、ミステリが読みたい!、本格ミステリこれがベストだ!、東西ミステリーベスト100など、数々のランキングで作品が上位にランクインするなど、高い評価を得ています。

西澤保彦は、その多彩な作品群と卓越した才能で、ミステリー文学の世界に新たな地平を開拓し続けている作家と言えるでしょう。彼の作品は、読者に想像を超えた驚きと、深く考えさせられる余韻を与えてくれます。

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