親魏倭王

親魏倭王とは

「親魏倭王（しんぎわおう）」とは、3世紀の中国、魏の皇帝である曹叡（そうえい）が、日本の邪馬台国の女王・卑弥呼（ひみこ）に対して与えたとされる称号です。この出来事は、中国の歴史書『三国志』の「東夷伝倭人条」（通称『魏志倭人伝』）に記録されており、西暦238年（景初2年）に授与されたとされています。ただし、239年（景初3年）とする異説もあり、この場合は皇帝が曹芳（そうほう）となります。

朝貢ルートの閉塞と再開

後漢末期から三国時代初期にかけて、中国の遼東郡（りょうとうぐん）から朝鮮半島北部にかけては、公孫氏（こうそんし）が事実上の独立政権を築いていました。このため、倭や朝鮮半島南部の諸民族（韓）を含む「東夷」と呼ばれた地域からの朝貢ルートが遮断されていました。この期間、倭や韓は、公孫氏が204年に設置した帯方郡（たいほうぐん）の支配下に置かれていました（『三国志』魏書東夷伝韓条）。

倭国内では「倭国大乱」と呼ばれる内乱も起きていましたが、この時代の東方諸国と中国王朝との交流途絶は他でも見られ、倭の朝貢途絶には公孫氏の影響も大きかったと考えられます。しかし、238年（景初2年）8月、公孫淵（こうそんえん）が魏の司馬懿（しばい）によって討伐され、公孫氏政権が崩壊すると、魏は楽浪郡（らくろうぐん）と帯方郡を占拠し、倭との交流が再び始まりました。

卑弥呼は帯方郡に使者を送り、魏との交流を再開しました。一方、呉と倭との交流の可能性も指摘されていますが、『三国志』が魏を正統王朝とする立場から、呉や蜀（蜀漢）への朝貢に関する記述がほとんどないため、確証はありません。

魏の皇帝は、卑弥呼からの朝貢に対し、返礼として下賜品を贈るとともに、卑弥呼を「親魏倭王」に任じ、その証として金印を授与しました。『魏志倭人伝』には、制書の冒頭文が省略なく全文記載されており、その記述の正確性が窺えます。

「親魏倭王」の価値

「親魏倭王」という称号は、魏国内の諸王に与えられた冊書（さくしょ）よりも下位の書式である制書（せいしょ）によって任じられたことから、その価値を低く見る向きもあります。また、大月氏国（だいげっしこく）のような、以前から交流のあった西方諸国とは異なり、卑弥呼（倭王）に魏の高官の官位が与えられていない点も、その理由として挙げられます。しかし、「親魏〇〇王」という称号自体が、西方の大国である大月氏国にしか与えられていない特別なものでした。

魏は当時、倭（邪馬台国）を現在の日本列島よりもかなり南に位置する国だと認識しており、呉を背後から牽制する存在として、邪馬台国を大月氏国と同等に扱うという異例の厚遇を与えました。一方、邪馬台国にとっては、この称号は、魏が後ろ盾となっているという威信を国内の敵対勢力に示す上で重要な意味を持ちました。

印綬の授与と返上

卑弥呼の後継者とされる台与（とよ）（あるいは壱与（いよ））は、西晋王朝成立の翌年である266年に朝貢を行いました。この際、前王朝から授与された「親魏倭王」の金印は回収されたという説もありますが、確かな根拠はありません。一方、『梁書』倭伝には、台与（壱与）の後に男王が立ち、中国から爵命を受けたという記述があるため、壱与にも晋から新たな称号と印綬（いんじゅ）が授与されたと推測されています。

まとめ

「親魏倭王」の称号は、当時の東アジアにおける国際関係を象徴する重要な出来事でした。この称号が、邪馬台国の外交や国内政治に与えた影響は大きく、その意義を深く理解することは、古代日本の歴史を解明する上で欠かせません。

参考文献

大庭脩『古代中世における日中関係史の研究』（同朋舎出版、1996年） ISBN 4810422690

関連項目

邪馬台国
卑弥呼
神功皇后

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