言論統廃合
韓国における「言論統廃合」（朝鮮語: 언론통폐합）は、1980年に当時の全斗煥（チョン・ドゥファン）政権によって強行された、大規模なメディア再編と統制政策を指します。この措置は、同年5月17日の非常戒厳令拡大措置によって軍部が政治の実権を掌握した直後に、政府が言論機関を完全に掌握し、体制批判を封じ込めることを目的として実行されました。
政権を掌握した軍部は、直ちにメディアへの支配を企図し、その第一段階として既存のメディアに対する圧力を加えました。まず、「言論検閲の撤廃と自由な報道の実践」を訴えていた記者協会の幹部らが多数拘束され、さらに同年8月9日までに、政府に批判的な報道姿勢をとっていた記者など、合計711人もの記者やメディア関係者が職を追われることとなりました。続いて、7月31日には、定期刊行物172誌の登録が強制的に取り消され、『シアレソリ』や『創作と批評』といった、政府に批判的な論調を持っていた有力な月刊誌を含む多数の出版物が廃刊に追い込まれました。
これらの予備的な措置に続き、1980年11月12日の「言論統廃合措置」の発表、そして同年12月1日の「言論基本法」の制定をもって、一連のメディア統制策は完了しました。この大規模な再編により、最終的には全国紙1社を含む新聞11社（経済紙2社、地方紙8社）、全国放送3社を含む放送27社（地方放送3社、文化放送系放送局21社）、そして通信社6社、合計44ものメディア機関が廃止・解散され、残る他の機関に吸収・統合される事態となりました。
政府はこの政策について、健全な言論環境の育成と発展のためと説明しましたが、その実態は、軍部政権によるメディア機関への絶対的な支配を確立することにありました。統廃合を生き残ったメディア機関は、体制を擁護するプロパガンダを担うことを求められる代わりに、経済的な安定や優遇措置を与えられました。これにより、権力とメディアが相互に連携し、メディア機関が巨大化する「権言複合体」（権力とメディアが複合的に結びついた構造）が形成されました。この厳格なメディア統制政策は、その後、盧泰愚（ノ・テウ）政権が誕生する1988年まで継続されることになります。
言論統廃合措置の具体的な内容は多岐にわたります。新聞分野では、日本の「県」に相当する各道ごとに、地方紙が原則として一紙に統合されました。例えば、釜山日報と国際ニュースが統合されて釜山毎日新聞となり、慶南毎日新聞と慶南日報が統合されて慶南新聞となるなど、各地で強制的な合併が行われました。また、ソウルには4社あった経済紙が毎日経済新聞と韓国経済新聞の2社のみに整理され、全国紙の新亜日報は廃刊となり、京郷新聞に吸収されました。地方新聞や放送局のソウル支局は撤廃され、ニュース情報は政府支配下の通信社に依存するよう制度化されました。
テレビ・ラジオ分野では、さらに大規模な再編が行われました。東洋放送（テレビ・ラジオ）、全日放送、西海放送、韓国FM放送、そして東亜放送（ラジオ）といった民間の主要放送局が、公共放送である韓国放送公社（KBS）に強制的に統合されました。この統合により、東洋放送のテレビはKBS第2テレビに、ラジオ部門はKBS第2ラジオ（後に第3ラジオ）やKBS第2FMに再編成されました。また、東亜放送のラジオはラジオソウルとしてKBS傘下に入りました（後にKBSから独立し、民営のソウル放送SBSの前身となる）。文化放送（MBC）についても、株式の70パーセントをKBSが取得することで事実上公有化され、これにより京郷新聞との経営共有関係が解消されました。さらに、キリスト教放送（CBS）は商業放送としての機能（広告収入や娯楽番組）が剥奪され、純粋な宗教放送へと限定されました。KBSに統合された地方民放やCBSでは、コマーシャル放送が一時的に禁止されるなど、厳しい規制が課されました。
通信社分野では、合同通信と東洋通信という二大通信社を含む複数の通信社が統合され、現在の聯合ニュースの前身である聯合通信へと一本化されました。
これらの厳格な言論統制は、1988年に盧泰愚政権が発足し、民主化の進展とともに段階的に緩和されていきました。まず、KBS傘下だったラジオソウルが独立してソウル放送（SBS）となり、新規の民間地上波テレビ・FMラジオ局として全国各地にネットワークを展開しました。また、教育放送のチャンネルもKBSから分離し、韓国教育放送公社（EBS）として独立しました。CBSは、1987年には宗教以外の番組制作を再開し、1989年には広告放送も再び認められました。KBS第2テレビ・第2ラジオ、SBSも1982年からコマーシャル放送が再開されるなど、商業放送としての活動が徐々に認められました。さらに、交通放送、国楽FM放送、圓音放送（WBS）、平和放送（CPBC）、仏教放送（BBS）といった新規の民間放送団体が次々と開局し、言論統制以前から活動していたFEBC-Korea（極東放送）も地方都市へのFMネットワークを拡大するなど、放送メディアの多様性が回復に向かいました。放送時間枠の制限緩和や衛星放送の参入も認められるなど、規制緩和が進みました。
2009年には、当時の李明博（イ・ミョンバク）政権下でメディア関連3法が施行され、新聞社による放送局経営が解禁されました。これにより、2011年には毎日経済新聞系のMBN、中央日報系のJTBC、朝鮮日報系のTV朝鮮、東亜日報系のチャンネルAといった、新聞系列のケーブルテレビ局が一斉に開局し、再びメディア環境に大きな変化がもたらされました。
言論統廃合は、全斗煥政権下での権力によるメディア支配の象徴的な政策であり、多くのジャーナリストが職を失い、メディアの多様性が著しく損なわれました。関連人物としては、この政策を主導したとされる許文道（ホ・ムンド）が挙げられます。また、この時代の言論統制の法的根拠となった「言論基本法」や、言論統廃合によって解職された記者らが中心となって創刊された進歩系の新聞「ハンギョレ」、そして解職されたジャーナリストらによって結成された対抗言論運動組織「民主言論運動協議会」（後の民主言論運動市民連合）なども、この出来事と深く関連しています。言論統廃合の歴史は、韓国におけるメディアと権力の関係、そして民主化過程における言論の自由回復の重要性を示すものとして記憶されています。
政権を掌握した軍部は、直ちにメディアへの支配を企図し、その第一段階として既存のメディアに対する圧力を加えました。まず、「言論検閲の撤廃と自由な報道の実践」を訴えていた記者協会の幹部らが多数拘束され、さらに同年8月9日までに、政府に批判的な報道姿勢をとっていた記者など、合計711人もの記者やメディア関係者が職を追われることとなりました。続いて、7月31日には、定期刊行物172誌の登録が強制的に取り消され、『シアレソリ』や『創作と批評』といった、政府に批判的な論調を持っていた有力な月刊誌を含む多数の出版物が廃刊に追い込まれました。
これらの予備的な措置に続き、1980年11月12日の「言論統廃合措置」の発表、そして同年12月1日の「言論基本法」の制定をもって、一連のメディア統制策は完了しました。この大規模な再編により、最終的には全国紙1社を含む新聞11社（経済紙2社、地方紙8社）、全国放送3社を含む放送27社（地方放送3社、文化放送系放送局21社）、そして通信社6社、合計44ものメディア機関が廃止・解散され、残る他の機関に吸収・統合される事態となりました。
政府はこの政策について、健全な言論環境の育成と発展のためと説明しましたが、その実態は、軍部政権によるメディア機関への絶対的な支配を確立することにありました。統廃合を生き残ったメディア機関は、体制を擁護するプロパガンダを担うことを求められる代わりに、経済的な安定や優遇措置を与えられました。これにより、権力とメディアが相互に連携し、メディア機関が巨大化する「権言複合体」（権力とメディアが複合的に結びついた構造）が形成されました。この厳格なメディア統制政策は、その後、盧泰愚（ノ・テウ）政権が誕生する1988年まで継続されることになります。
言論統廃合措置の具体的な内容は多岐にわたります。新聞分野では、日本の「県」に相当する各道ごとに、地方紙が原則として一紙に統合されました。例えば、釜山日報と国際ニュースが統合されて釜山毎日新聞となり、慶南毎日新聞と慶南日報が統合されて慶南新聞となるなど、各地で強制的な合併が行われました。また、ソウルには4社あった経済紙が毎日経済新聞と韓国経済新聞の2社のみに整理され、全国紙の新亜日報は廃刊となり、京郷新聞に吸収されました。地方新聞や放送局のソウル支局は撤廃され、ニュース情報は政府支配下の通信社に依存するよう制度化されました。
テレビ・ラジオ分野では、さらに大規模な再編が行われました。東洋放送（テレビ・ラジオ）、全日放送、西海放送、韓国FM放送、そして東亜放送（ラジオ）といった民間の主要放送局が、公共放送である韓国放送公社（KBS）に強制的に統合されました。この統合により、東洋放送のテレビはKBS第2テレビに、ラジオ部門はKBS第2ラジオ（後に第3ラジオ）やKBS第2FMに再編成されました。また、東亜放送のラジオはラジオソウルとしてKBS傘下に入りました（後にKBSから独立し、民営のソウル放送SBSの前身となる）。文化放送（MBC）についても、株式の70パーセントをKBSが取得することで事実上公有化され、これにより京郷新聞との経営共有関係が解消されました。さらに、キリスト教放送（CBS）は商業放送としての機能（広告収入や娯楽番組）が剥奪され、純粋な宗教放送へと限定されました。KBSに統合された地方民放やCBSでは、コマーシャル放送が一時的に禁止されるなど、厳しい規制が課されました。
通信社分野では、合同通信と東洋通信という二大通信社を含む複数の通信社が統合され、現在の聯合ニュースの前身である聯合通信へと一本化されました。
これらの厳格な言論統制は、1988年に盧泰愚政権が発足し、民主化の進展とともに段階的に緩和されていきました。まず、KBS傘下だったラジオソウルが独立してソウル放送（SBS）となり、新規の民間地上波テレビ・FMラジオ局として全国各地にネットワークを展開しました。また、教育放送のチャンネルもKBSから分離し、韓国教育放送公社（EBS）として独立しました。CBSは、1987年には宗教以外の番組制作を再開し、1989年には広告放送も再び認められました。KBS第2テレビ・第2ラジオ、SBSも1982年からコマーシャル放送が再開されるなど、商業放送としての活動が徐々に認められました。さらに、交通放送、国楽FM放送、圓音放送（WBS）、平和放送（CPBC）、仏教放送（BBS）といった新規の民間放送団体が次々と開局し、言論統制以前から活動していたFEBC-Korea（極東放送）も地方都市へのFMネットワークを拡大するなど、放送メディアの多様性が回復に向かいました。放送時間枠の制限緩和や衛星放送の参入も認められるなど、規制緩和が進みました。
2009年には、当時の李明博（イ・ミョンバク）政権下でメディア関連3法が施行され、新聞社による放送局経営が解禁されました。これにより、2011年には毎日経済新聞系のMBN、中央日報系のJTBC、朝鮮日報系のTV朝鮮、東亜日報系のチャンネルAといった、新聞系列のケーブルテレビ局が一斉に開局し、再びメディア環境に大きな変化がもたらされました。
言論統廃合は、全斗煥政権下での権力によるメディア支配の象徴的な政策であり、多くのジャーナリストが職を失い、メディアの多様性が著しく損なわれました。関連人物としては、この政策を主導したとされる許文道（ホ・ムンド）が挙げられます。また、この時代の言論統制の法的根拠となった「言論基本法」や、言論統廃合によって解職された記者らが中心となって創刊された進歩系の新聞「ハンギョレ」、そして解職されたジャーナリストらによって結成された対抗言論運動組織「民主言論運動協議会」（後の民主言論運動市民連合）なども、この出来事と深く関連しています。言論統廃合の歴史は、韓国におけるメディアと権力の関係、そして民主化過程における言論の自由回復の重要性を示すものとして記憶されています。
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