西魏

西魏：関中を拠点とした北朝の雄

西魏は、中国の南北朝時代（535年-556年）に存在した北朝の政権です。北魏が分裂した際に成立し、函谷関の西側、関中地方を中心とした版図を有していました。東魏は、函谷関の東側、中原を支配しており、西魏と対照的な存在でした。両者はともに北魏の正統性を主張していましたが、後世の歴史家は便宜上「東魏」「西魏」と区別して呼んでいます。実際、両国とも国号は「魏」でした。

興味深いのは、東魏の後継国家である北斉が編纂した『魏書』という歴史書において、東魏の皇帝である孝静帝は北魏の正統な皇帝として扱われているのに対し、西魏の皇帝については全く記述がない点です。西魏の臣下の一部は、北周の建国に貢献した人物として『周書』に記録されていますが、西魏の皇帝に関する詳細な記述は、唐代に編纂された『北史』まで待たなければなりませんでした。西魏の歴史を詳細に記した歴史書としては、清代の謝蘊山による『西魏書』が挙げられます。

西魏の成立と宇文泰の台頭

534年、北魏の孝武帝は、大丞相高歓を除こうと画策しますが失敗し、洛陽から関中へ逃亡します。そこで宇文泰の保護を受けますが、両者の関係は良好ではなく、孝武帝は宇文泰によって毒殺されました。その後、535年、孝武帝の従兄である元宝炬が西魏の文帝として即位します。

西魏建国後、宇文泰は事実上、国の全権を掌握しました。文帝を始めとする西魏の皇帝は、宇文泰の支配下に置かれた傀儡皇帝に過ぎませんでした。宇文泰は、548年には太師・大冢宰に任じられ、名実ともに西魏の支配者としての地位を確立しました。

軍事的成功と南進政策

西魏は、当初は広大な農耕地を持つ東魏に国力では劣っていましたが、巧みな戦略によって軍事的な成功を収めました。549年、南朝梁で侯景の乱が勃発すると、西魏は梁の皇族と手を組み、かつて梁から奪われた漢中地方を奪還しました。さらに、553年には四川地方を征服し、版図を拡大しました。554年には江陵を陥落させ、南朝梁の元帝を殺害、代わりに西魏の傀儡政権である後梁（西梁）を建国しました。後梁の支配地は限られていましたが、江南への楔を打ち込むことに成功し、西魏の勢力拡大に貢献しました。この後梁、そして西魏、北周と中国統一への流れが生まれます。

東魏との戦いでは、一進一退の攻防が続きました。550年、高歓の子である高洋が東魏から禅譲を受けて北斉を建国すると、宇文泰は北斉への東伐を行いました。しかし、大雨により西魏軍は敗退し、旧東魏の人々は北斉に帰順しました。『資治通鑑』によれば、この敗北にもかかわらず皮肉にも東魏滅亡によって魏の正統性の問題は解消され、西魏の南進は加速することになります。

西魏の滅亡と北周の建国

556年10月、宇文泰が死去すると、その嫡子である宇文覚が後を継ぎ、太師・大冢宰となりました。同年12月には周公に封じられ、恭帝から禅譲を受け、西魏は滅亡しました。557年1月、宇文覚は天王に即位し、国号を周（北周）と改めました。

西魏の主要人物

西魏の歴史において重要な役割を果たした人物として、宇文泰の存在は欠かせません。他に、西魏の政治・軍事において貢献した八柱国や十二大将軍といった重臣たちがいました。特に八柱国は、宇文泰、李虎、元欣、李弼、独孤信、趙貴、于謹、侯莫陳崇からなり、西魏の政治・軍事の中枢を担っていました。これらの序列については、史料によって差異があり、特に李虎の順位については議論があります。これは、北周建国後の史料操作の可能性も示唆されており、歴史研究において重要な論点となっています。

まとめ

西魏は短命な王朝でしたが、宇文泰による強大な統治と巧みな外交・軍事戦略によって、南朝梁への侵攻、版図拡大、さらには北周への継承という大きな足跡を残しました。その興亡は、南北朝時代の複雑な政治情勢と、権力闘争の激しさ、そして中国統一への道筋を示す重要な一コマです。西魏の歴史を詳細に知ることは、南北朝時代を理解する上で不可欠です。

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