説話 (中国)

説話：宋代の街角に花開いた物語の世界

宋代の中国、大都市の街角や茶楼、芝居小屋などでは、人々を魅了する様々な芸が披露されていました。その中でも特に人気を集めていたのが「説話」です。「説」は語る、「話」は物語を意味し、語り手が様々な物語を聴衆に語り聞かせる話芸を指します。北宋の開封や南宋の杭州といった大都会では、演劇や講談、曲芸などと共に、説話も重要なエンターテイメントとして賑わいを見せていました。説話を披露する芸人は「説話人」と呼ばれ、彼らの語る物語は「話本」として記録されていきました。

しかしながら、現代においても「話本」の定義は必ずしも明確ではありません。明代の短編小説を「話本」と呼ぶことができるのかについては、研究者の間でも議論が続いています。

説話の多様な世界：四つのジャンル

説話は、大きく四つのジャンルに分類され、「説話四家」と呼ばれていました。ただし、この分類は人によって解釈が異なり、必ずしも明確なものではありません。その中には、小説、説経、講史、そして滑稽話や即興芸、謎解きといった様々な形式が含まれていました。

1. 小説（銀字児）：街のざわめきを映す鏡

「小説」または「銀字児」と呼ばれるジャンルは、市井の人々の生活や出来事を描いた短編物語です。恋愛物語、怪奇譚、伝奇、裁判もの、軍記物など、実に多様なテーマが取り上げられていました。代表的な作品としては、『清平山堂話本』や馮夢龍編の『三言二拍』（『喩世明言』、『警世通言』、『醒世恒言』）、凌濛初編の『拍案驚奇』などが挙げられます。これらの作品は、宋・元代の物語を元に改作されたものです。ここでいう「小説」は、現代的な意味での小説とは異なり、現代的な意味で使われるようになったのは16世紀頃からです。

2. 講史（演史）：歴史の舞台裏を語る

「講史」または「演史」は、歴史を題材とした物語で、長編のものが多いのが特徴です。『新編五代史平話』『大宋宣和遺事』『三国志平話』などがその例として挙げられます。特に「平話」と呼ばれるものは、講史の話本を指します。『宣和遺事』は明代の傑作『水滸伝』、『三国志平話』は『三国志演義』の成立に大きな影響を与えたことで知られています。

3. 説経（談経）：仏教の教えを伝える

「説経」または「談経」は、仏教の教えを説いた物語です。唐代の俗講に由来し、禅問答を模倣した形式の作品もあります。『大唐三蔵取経詩話』は、後に名作となる『西遊記』の土台を築いた重要な作品です。明代には、宝巻という形式も現れました。

4. その他：多様な表現の競演

説話には、上記以外にも滑稽話である「説諢話」、即興芸である「合生」、謎解きである「商謎」といった様々な形式が含まれていました。これらの多様な表現が、宋代の街角を彩っていたのです。

説話を紐解く：参考文献

説話についてより深く知りたい方は、以下の参考文献がおすすめです。

志村五郎『中国説話文学とその背景』（ちくま学芸文庫、2006年）
志村五郎『中国古典文学私選　凡人と非凡人の物語』（明徳出版社、2008年）
沢田瑞穂『中国の伝承と説話』（研文選書、研文出版、1988年）
高橋稔『中国説話文学の誕生』（東方選書、東方書店、1988年）

これらの書籍は、説話の歴史、分類、文学的特徴などについて、詳細な考察がなされています。宋代の街角に響き渡った物語の世界を理解する上で、大いに役立つでしょう。

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