読史余論

読史余論

『読史余論』（読み：とくしよろん）は江戸時代の著名な学者であり政治家である新井白石によって執筆された、日本の政治史や歴史観を深く探求した作品です。白石は主君である徳川家宣のために、歴史の教訓を語る形でこの書をまとめました。書の成立時期については自跋に示されている内容が参考にされますが、実際にはそれよりも早くにまとまっていた可能性が高いと言われています。

構成と内容

『読史余論』は3冊から構成されており、第1巻の冒頭には日本の政治状況に関する総論が示されています。ここでは、藤原政権の確立以降、歴史が「天下の大勢」としてどのように変化していったのか、具体的には「九変」と呼ばれる一連の変遷を辿り、武家時代の成立、そしてその後「五変」の時代を経て徳川政権に至る様子が記されています。白石はこの歴史的な大きな動きを「変」として捉え、そこには儒教的な徳と不徳の観念を絡めて、政治権力が天皇から徐々に摂関家、上皇、武士へと移っていった経緯を描いています。

第1巻では、公家勢力の衰退に焦点を当て、次第に武家が力を持つようになっていく過程を描写しています。第2巻では、さらに上古に遡り、武家の成立とその興隆の様子を述べ、1巻と2巻の内容が重なりあうことが見て取れます。このような構成は、日本の天皇、公家、武家という三つの政治体制の盛衰を理解するための新たな視点を提供します。

さらに、本書の特徴的な点は、歴史の各所で「按ずるに」と始まる白石自身の見解を加えていることにあります。これは、歴史上の重要な事件や人物に対する批評を行い、当時の将軍に対する政策的な示唆を提供することにも繋がっています。

評価と影響

白石の学問は朱子学の立場からのものであり、特に『神皇正統記』の影響を色濃く受けています。後醍醐天皇を不徳としつつも神器を持つ正統な天皇として認め、一方で足利尊氏などの具体的な人物に対しても評価を試みる様子が見て取れ、評価が一貫していない点が指摘されることがあります。さらに、その時代区分にも限界があり、支配層や個人の動向に焦点を当てた偏った見方が批判を受けることもあります。

とはいえ、白石は日本史においての時代区分を確立し、政治史を書くための体系的なアプローチを導入した先駆者でした。その功績は、今日でも多くの歴史研究者によって高く評価されています。

主要な刊行文献

• - 「読史余論」 - 『日本思想大系35 新井白石』（益田宗校注、岩波書店）
• - 『読史余論』 村岡典嗣校訂、岩波文庫（初版は戦前刊行）
• - 『新井白石「読史余論」現代語訳』 横井清訳（講談社学術文庫、2012）
• - 元版『日本の名著15 新井白石』（中央公論社）

本書は、ただの歴史書ではなく、政治や倫理についての深い考察をも提供しており、歴史を通じて現代に生きる我々に多くの学びを与えているのです。

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