諫早行孝

諫早行孝（いさはや ゆきのり）について

諫早行孝は、江戸時代中期の武士で、肥前国佐賀藩に仕えた諫早鍋島家の9代当主です。1736年に生まれ、1753年に18歳という若さで亡くなりました。彼の短い生涯は、佐賀藩の複雑な藩政と、それに翻弄される領民の姿を映し出しています。

出自と家柄

諫早家は、龍造寺隆信の又従兄弟である家晴を祖とする家系です。龍造寺氏は、もともと佐賀藩主である鍋島氏の主君にあたります。しかし、鍋島氏に遠慮して諫早氏を称しました。家紋は「上り藤」を用い、代々藩主から「茂」の字を賜ることを慣例としていました。諫早家は、藩内で親類同格の高い家格を持ち、龍造寺氏一族として、大名並みの二万六千石の知行と強い影響力を持っていました。

行孝の祖父にあたる7代諫早茂晴は、白石鍋島家から養子に入り、6代諫早茂元の娘である於福との間に8代茂行を儲けています。このように、諫早家は佐賀藩の中でも特別な位置を占める家柄でした。

家督相続と一揆

1750年、行孝が15歳の時、父である8代当主・諫早茂行が藩主・鍋島宗教の廃立を企てたとして、藩から一万石の知行を没収されるという事件が起こりました。茂行は蟄居・隠居を命じられ、これにより行孝は家督を相続することになります。しかし、この知行没収が諫早家の家臣や領民の反発を招きました。

諫早家は、過去にも佐賀藩から所領の一部を召し上げられる「上知」を経験しており、今回の知行没収に対し、家臣たちは強く反発しました。その不満は領民にも広がり、領民たちは上知に反対する一揆を起こしました。この一揆は「諫早一揆」と呼ばれます。領民たちは日田代官所に訴状を提出し、それが藩にも伝わったため、事態はさらに深刻化しました。藩は訴状を提出した者を差し出すように命じましたが、領民たちは一万四千人にも膨れ上がり、佐賀に訴えに行く動きを見せました。

事態を重く見た行孝の大伯父である白石鍋島隠居徹龍（鍋島直愈）が調停に乗り出しました。上知を3年間に限り、その後は藩から返還するという案が提示され、行孝も家臣も了承しましたが、領民側は受け入れず、調停は失敗に終わりました。

一揆鎮圧と悲劇的な最期

調停が決裂したため、藩は多久茂堯に兵800を与え、諫早一揆の鎮圧を命じました。多久勢は一揆の指導者であった儒学者・若杉春后を捕らえ、領民を鎮静化させました。これにより、一万石の知行は藩に没収されました。一揆の処分は厳しく、行孝は蟄居、諫早家の家老は切腹、若杉春后は磔となり、多くの家臣や領民が犠牲となりました。行孝自身も1753年8月に蟄居を許されたものの、病に倒れ、そのまま亡くなりました。享年18歳という若さでした。

行孝は歴代当主が受けていた藩主からの偏諱を受けることもなく、菩提寺である天祐寺に葬られました。

参考文献

藤野保「佐賀藩」
小城藩日記データベース

諫早行孝の生涯は、佐賀藩の歴史における一つの悲劇として、今も語り継がれています。

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