鳥養牧

鳥養牧（とりかいのまき）

鳥養牧は、平安時代に摂津国島下郡（現在の大阪府摂津市）に存在した牧です。この牧は、当時の都である平安京に近い場所に設置された「近都牧」の一つであり、左右馬寮によって管理されていました。特に、右馬寮の管轄下にあり、安威川下流と淀川の間の沖積地に位置していました。

近都牧としての鳥養牧

『延喜式』によると、当時の牧は、御牧（皇室用）、諸国牧（兵馬・役牛用）、近都牧（都周辺）の3種類に分類されていました。鳥養牧は、このうちの近都牧に該当し、都の貴族たちが利用する馬や牛を飼育する役割を担っていました。これらの家畜は、貴族の移動手段や儀式に不可欠なものであり、近都牧は、都の生活を支える重要な施設でした。鳥養牧では、諸国から献上された馬牛を飼育し、節会や行幸などの際に必要に応じて供給していました。

鳥養牧の場所

鳥養牧の具体的な場所は、淀川本流にかつて存在した「馬島」や「本牧」、「五久」といった地名から、鳥飼西部から淀川沿いに、上流の三箇牧（現在の高槻市付近）近くまで、かなり広範囲にわたっていたと考えられています。この広大な地域で、多くの馬や牛が飼育されていたのでしょう。

文献に見る鳥養牧

『大和物語』には、鳥養牧に別業（なりどころ）地があり、「鳥飼院」という施設があったことが記されています。ここでは、遊女が歌を詠み、貴族が遊行する様子が描かれており、牧が単なる家畜の飼育場ではなく、社交や娯楽の場としても利用されていたことが伺えます。また、『土佐日記』には、紀貫之一行が土佐国から帰京する際に、鳥養牧の近くに泊まった様子が描かれています。この記述からも、当時の交通の要所であった淀川の近くに、鳥養牧が存在していたことがわかります。

鳥養牧の変遷

12世紀以降、鳥養牧は耕地化が進み、左馬寮の荘園へと変化しました。鎌倉時代には西園寺家が所務職を管掌し、室町時代には同じ西園寺家流の洞院家と菊亭家との間で争いが生じましたが、最終的には菊亭家の管轄となりました。このように、鳥養牧は時代とともにその姿を変え、牧としての役割を終え、荘園へと変貌していきました。

まとめ

鳥養牧は、平安時代に都の近くに設けられた重要な牧であり、貴族の生活を支える役割を担っていました。文献にもその存在が記録されており、当時の社会や文化を理解する上で貴重な情報源となっています。時代とともに変化を遂げながらも、その名前は歴史の中に刻まれています。

参考文献

『岩波日本史辞典』p. 1067、監修：永原慶二、岩波書店、1999年
『角川第二版日本史辞典』p. 701、p. 889、高柳光寿・竹内理三：編、角川書店、1966
『竹取物語・伊勢日記・土佐日記』完訳日本の古典10、小学館、1983年
『竹取物語・伊勢日記・大和物語・平中物語』新編日本古典文学全集12、小学館、1994年

関連項目

牧 (古代)
大江玉淵

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