費孝通

費孝通（ひ こうつう）

費孝通（1910年11月2日 - 2005年4月24日）は、中国の社会学者、人類学者、民族学者であり、中国における社会学と人類学の基礎を築いた重要な人物です。彼は、第七、八回全国人民代表大会常務委員会副委員長や中国人民政治協商会議第六回全国委員会副主席などの要職も歴任しました。

生涯

1910年、江蘇省蘇州呉江に生まれた費孝通は、1933年に燕京大学を卒業し、社会学の学士号を取得しました。その後、清華大学大学院に進み、1935年に社会学・人類学の修士号を取得。1936年からは、英国ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス（LSE）で社会人類学を学び、人類学者のブロニスワフ・マリノフスキに師事しました。

1938年、ロンドン大学で博士号を取得。博士論文は『江村経済』として知られています。また、この時期に『中国農民の生活』を翻訳し出版しました。

帰国後、雲南大学社会学系で教鞭を執り、1940年には教授に就任。雲南大学と燕京大学の共同社会学研究室を総括しました。1945年には、中国民主同盟に参加し、愛国運動に身を投じました。

その後、西南聯合大学教授、清華大学教授、副教務長を歴任し、1951年には中央民族訪問団中南訪問団代理団長兼広西分団団長に選出されました。

1952年、中央民族学院副院長に就任し、中国科学院哲学社会科学学部委員も兼任。1957年には、中央民族学院人類学教授となりました。1978年には中国社会科学院民族研究所副所長に就任し、1979年には中国社会学学会会長に選出されました。1980年には、中国社会科学院社会学研究所所長となり、アメリカの国際応用人類学会からマリノフスキー賞を受賞し、同会会員に列せられました。

1981年には、ロンドンで英国王立人類学学会ハクスリー章を受賞し、1982年には北京大学社会学系教授に就任、中国社会科学院社会学研究所名誉所長にも就任しました。また、ロンドン大学経済政治学院より栄誉院士の称号を授与されました。

1985年には、北京大学社会学研究所所長に再任。1988年には、ニューヨークで大英百科全書賞を受賞。その後も、1993年に福岡アジア文化賞、1994年にマグサイサイ賞を受賞するなど、国際的な評価も高めました。

2005年、北京で逝去。享年95歳でした。

研究と業績

費孝通は、中国の社会構造や文化を深く理解するために、農村社会を対象としたフィールドワークを重視しました。彼の代表的な著書である『郷土中国』と『江村経済』は、中国社会を理解する上で必読の書とされています。

『江村経済』は、彼の博士論文を基にしたもので、中国の農村の経済構造や社会関係を詳細に分析したものです。この研究は、マリノフスキーの機能主義人類学の影響を受けつつ、中国社会の独自性を捉えようとしたものです。

『郷土中国』は、中国の伝統的な社会構造や文化を解説したもので、中国社会を理解するための基本的な枠組みを提供しています。

また、1988年に提唱した「中華民族多元一体構造」は、中国に住む諸民族は数千年の歴史を経て一体性を有するとするもので、現在の中国の民族政策の基本路線を成すとも言われています。

主要な著作

費孝通は、多数の著作を残しており、その一部は日本語にも翻訳されています。

『Peasant Life in China』（1939年、訳題『江村経済』）
『禄村農田』（1943年）
『Earthbound China』（1945年）
『中国紳士』（1945年）
『内地農村』（1946年）
『生育制度』（1947年）
『郷土中国』（1948年）
『郷土重建』（1948年）
『Toward a Peoples Anthropology』（1981年）
『Chinese Village Close-up』（1983年）
『従事社会学五十年』（1983年）
『小城鎮四記』（1985年）
『費孝通社会学論文集』（1985年）
『費孝通社会学文集』（1985年）
『Small Towns in China』（1986年）
『記小城鎮及其他』（1986年）
『辺区開発与社会調査』（1987年）
『費孝通民族研究文集』（1988年）
『行行重行行』（1989年）
『費孝通文集』（1999年）

日本語訳された著作には、以下のようなものがあります。

『生育制度　中国の家族と社会』（横山広子訳、東京大学出版会、1985年）
『中国農村の細密画　ある村の記録』（小島晋治ほか訳、研文出版・研文選書、1985年）
『江南農村の工業化　“小城鎮”建設の記録』（大里浩秋・並木頼寿訳、研文出版・研文選書、1988年）
『郷土中国』（西澤治彦訳、風響社あじあブックス、2019年）
『郷土中国・郷土再建』（諸葛蔚東訳、東京大学出版会、2021年）
『費孝通学術論集　述懐と再考』（梁海燕・蒋青・陳雪・張哲訳、京都大学学術出版会、2021年）
* 『支那の農民生活 : 揚子江流域に於ける田園生活の実態調査』（仙波泰雄, 塩谷安夫 訳　生活社 昭14）

費孝通の研究は、現代の中国社会を理解する上で、非常に重要な貢献をしています。

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