野中四郎

野中四郎：二・二六事件の中心人物、陸軍歩兵大尉の生涯

野中四郎(1903-1936)は、昭和初期の日本陸軍において、二・二六事件の中心人物として知られる軍人です。岡山県岡山市出身で、陸軍軍人だった野中勝明の四男として生まれました。叔父である類三郎の養子となり、東京府立第四中学校を経て陸軍幼年学校を卒業。その後、陸軍士官学校を36期で卒業し、1924年7月に歩兵少尉に任官、歩兵第66聯隊に配属されました。

宇垣軍縮による歩兵第66聯隊の廃止に伴い、1925年5月には歩兵第3聯隊に異動。1927年10月には歩兵中尉、1933年8月には歩兵大尉に昇進し、歩兵第3聯隊第7中隊長を務めました。野中は職務に熱心に取り組んでおり、派閥抗争や革新運動には関与していませんでした。西田税の聴取書にも彼の名前は登場せず、関与を否定する証言が残されています。

しかし、1936年2月26日、野中四郎は運命の転換点を迎えます。二・二六事件において、約500名の下士官兵を率いて警視庁や桜田門付近を占拠。このクーデター未遂事件における重要な役割を担いました。事件から3日後の2月29日、山下奉文少将から自決を促され、叛乱の責任を負い、陸相官邸にて拳銃自殺しました。享年34歳でした。

自殺に際しては、旧知の井出宣時大佐が立ち会い、遺書を預かりました。野中四郎の通夜は原隊である歩兵第3連隊で行われ、その後、遺体は四谷の自宅に送られました。戒名は「直心院明光義剣居士」です。死後、正七位返上を命じられ、大礼記念章も取り消されました。

事件後、野中四郎の妻である美保子夫人は、新聞各社の取材に対し、夫の行動を世間に謝罪する手記を発表しました。これは事件に関与した将校の未亡人が発表した唯一の手記として知られています。美保子夫人は一人娘と共に実家に帰り、北陸地方の図書館で勤務しました。現在でも、毎年2月下旬には岡山市中区平井の東山霊園にある野中家の墓前で、有志による神道式の慰霊祭が行われています。

野中四郎の家族には、陸軍少将だった父・野中勝明、陸軍中佐だった兄・野中次郎(二・二六事件当時、佐倉歩兵第57聯隊中隊長)、海軍大佐だった弟・野中五郎(二・二六事件当時、海軍少尉、戦死後に二階級特進)がいました。兄弟も軍人としてそれぞれの道を歩んでおり、家族全体が軍部と深く関わっていたことがうかがえます。

野中四郎は、二・二六事件という歴史的事件の中心にいた人物として、その生涯は今もなお研究され、様々な視点から考察されています。事件への関与、最期の選択、そして家族のその後など、彼の生き様は現代社会に多くの問いかけを投げかけています。彼の物語は、単なる歴史上の出来事ではなく、個人の葛藤、時代の波、そして家族の絆といった複雑な要素が絡み合った、人間ドラマとして捉えることができるでしょう。数々の映画や舞台作品でも取り上げられ、その存在感は時代を超えて人々の記憶に刻まれています。彼の生涯を知ることで、昭和初期の日本社会、特に軍部内部の複雑な状況を理解する上で貴重な手がかりが得られるでしょう。様々な文献や資料を参照することで、より深く野中四郎という人物像に迫ることが可能になります。

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