赤松要

赤松 要

赤松 要（あかまつ かなめ、1896年8月7日 - 1974年12月20日）は、近代日本の経済学界において重要な足跡を残した経済学者であり、一橋大学名誉教授の称号を持ちました。特に、経済政策学の分野における第一人者として知られ、国際的な経済発展の段階を論じた独創的な雁行形態論を提唱しました。この理論は、後に門下生である小島清や山澤逸平らによってさらに発展させられ、国際経済学、特に開発経済学の分野に大きな影響を与えました。

経歴

赤松要は、1896年に福岡県で、かつての久留米藩藩士の長男として生を受けました。学問への道を歩み始め、久留米商業学校（現在の久留米市立久留米商業高等学校）、神戸高等商業学校（現在の神戸大学）で学びました。その後、1921年に東京高等商業学校（現在の一橋大学）を卒業。さらに学究を深め、1944年には東京商科大学から経済学博士号を取得しています。彼は、当時の著名な経済学者である福田徳三のもとで研鑽を積みました。

卒業後、1921年には名古屋高等商業学校（現在の名古屋大学経済学部）の講師に就任し、翌1922年には教授へと昇任しました。

1923年からは海外での研究機会を得て、ドイツへと留学しました。ドイツでは哲学者のハインリヒ・リッケルトやヘルマン・グロックナーから教えを受け、幅広い知見を養いました。その後、アメリカ合衆国に渡り、ハーヴァード大学で実践的なケースメソッドを修得しました。

この留学期間中には、名古屋高等商業学校の同僚であった宮田喜代蔵をはじめ、東京高等商業学校出身の本間喜一、渡邉大輔、大塚金之助、金子鷹之助、井藤半彌、吉田良三、また神戸高等商業学校出身の八木助市、坂本彌三郎、石田文次郎、田中金司、五百籏頭眞治郎、北村五良、平井泰太郎といった、同時期に海外で学んでいた多くの日本人研究者たちと活発に交流しました。彼らは日本料理店や日本人クラブなどで集まり、研究会を開いたり、将棋を楽しんだりして親睦を深めました。

帰国後、赤松は名古屋高等商業学校において重要な貢献をします。1926年には、同校に産業調査室（現在の名古屋大学大学院経済学研究科附属国際経済動態研究センター）を創設し、初代所長としてその運営にあたりました。ここでは、同僚の酒井正三郎や宮田喜代蔵とともに、日本の産業構造や経済動向に関する精力的な調査分析活動に従事しました。

1939年、赤松は東京商科大学（現在の一橋大学）の教授に迎えられました。太平洋戦争中は、東京商科大学東亜経済研究所が担った南方軍軍政総監部調査部の部長を務めるなど、軍政に関連する調査研究活動にも従事しました。南方軍司令部の移駐に伴う組織改編後には、馬来軍政監部の調査部長となりました。

終戦後、1946年に復員。大学での研究・教育活動を再開しました。1955年には一橋大学経済学部の学部長を務め、大学運営にも携わりました。1960年に一橋大学を定年により退き、同大の名誉教授の称号を得ました。

一橋大学退職後も、研究者、教育者としての活動は続き、1960年には明治大学教授に就任、1968年からは拓殖大学教授としても教壇に立ちました。また、学界のみならず、中央賃金審議会会長など、政府や社会の諮問機関のメンバーとしても活躍し、経済政策の形成に寄与しました。

研究業績と貢献

赤松要の最も有名な業績は、国際経済分野における発展段階論である雁行形態論の提唱です。これは、後発工業国が先進工業国を追随する形で産業構造を発展させていく過程を、空を飛ぶ雁の群れが先頭の雁に続いて列をなして飛ぶ姿に例えたものです。輸入から始まり、国内生産、輸出へと段階的に産業が成長していくパターンを提示し、東アジアなどの経済発展を説明する理論として、その後の国際経済学や開発経済学の研究に大きな影響を与えました。経済政策学の第一人者として、理論と現実を結びつける視点を重視し、日本の経済発展や国際経済関係に関する多くの洞察を提供しました。

門下生

赤松要は多くの優れた経済学者を育成しました。彼の薫陶を受けた研究者には、後に一橋大学教授となった小島清、明治大学教授の後藤昭八郎、拓殖大学長を務めた石沢芳次郎、アジア経済研究所研究員である米田公丸などがいます。また、神戸大学名誉教授の矢尾次郎や、元大蔵省関税局長の矢澤富太郎も、赤松ゼミの出身者として知られています。

関連情報

赤松要の生涯と業績については、池尾愛子による評伝『赤松要：わが体系をのりこえてゆけ』（評伝・日本の経済思想、日本経済評論社、2008年）が刊行されており、その思想と人物像を詳細に知ることができます。

（参照：原洋之介『一橋大学のアジア学 赤松要のアジア経済論を軸にして』PDF資料）

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