足利泰氏

足利泰氏（あしかが やすうじ）

足利泰氏は、鎌倉時代前期に活躍した武将で、足利氏の宗家4代目当主です。室町幕府を開いた足利尊氏の高祖父にあたり、その後の足利氏の発展に大きな影響を与えました。官位は正五位下、丹後守、尾張守などを歴任しています。

生涯

足利泰氏は、足利義氏の嫡男として生まれました。母は北条泰時の娘で、北条氏との縁が深い人物です。元服の際には、外祖父である北条泰時から「泰」の字を賜り、泰氏と名乗りました。嘉禎2年（1236年）に丹後守、嘉禎3年（1237年）には宮内少輔に任じられ、鎌倉幕府4代将軍・藤原頼経に近侍しました。

しかし、宝治元年（1247年）に正室が亡くなると、その後の政情不安の中で、建長3年（1251年）に36歳で出家します。この出家は幕府の許可を得ない無断のものであり、そのために所領を没収され、足利の本領に閉居することになりました。この出家の理由については、様々な憶測が飛び交っていますが、真相は不明です。

泰氏の出家後、幕府内では執権・北条時頼による得宗専制体制が強化され、有力御家人の勢力は削がれていきました。しかし、父の義氏は幕府の重鎮として重んじられ、その所領は泰氏の子である頼氏に相続されました。この頃の足利氏は、父の義氏と泰氏の時代に最大の勢力を誇っていたとされています。

一族と子孫

泰氏は、多くの子女をもうけ、彼らがその後の足利一門の発展を担いました。最初の正室は名越流北条氏の娘であり、斯波家氏と渋川義顕を儲けましたが、後に得宗家の北条時氏の娘を正室に迎え、足利頼氏を儲けました。この結果、家氏は廃嫡され、尾張足利家として斯波氏の祖となり、足利宗家は頼氏が継ぐことになりました。

泰氏の六男・基氏は、下野の足利荘のうち加古郷を分与されて加古氏の祖となり、さらに、桜井判官代俊光の娘との間に生まれた公深は、吉良荘一色郷を譲り受け、足利四職の一角を担う一色氏の祖となりました。

このように、足利泰氏の血筋は、斯波氏、渋川氏、一色氏など、後世に大きな影響力を持つことになる多くの武家を輩出しました。

泰氏の出家を巡る謎

泰氏の無断出家は、当時の社会に大きな衝撃を与えました。その背景には、宝治合戦後の政情不安や、北条氏による専制体制強化があったと考えられます。出家の翌年には、五代将軍・藤原頼嗣が京へ強制送還されており、この事件と泰氏の出家との関連性も指摘されています。

また、泰氏の出家直後に、謀反を企てたとして逮捕された人物の中に、足利氏の家臣と思われる人物がいたことから、泰氏もこの事件に関わっていたのではないかという説も存在します。細川重男は、泰氏が謀反の誘いを受けていた可能性を指摘し、計画の失敗を察知して、類が及ぶのを避けるために急遽出家したのではないかという推測をしています。

泰氏と足利氏の繁栄

泰氏の時代、足利氏はその勢力を拡大し、後の室町幕府開府への礎を築きました。足利氏の氏寺である鑁阿寺には、泰氏が足利一党の武者500騎を勢揃いさせた故事に因んだ「節分鎧年越」という行事が伝わっています。この行事は、泰氏の武威を示すとともに、足利氏の繁栄を象徴するものです。

関連作品

テレビドラマ『北条時宗』（2001年）では、俳優の西岡徳馬が足利泰氏を演じました。

まとめ

足利泰氏は、鎌倉時代中期に活躍した武将であり、室町幕府を開いた足利尊氏の高祖父にあたります。彼は北条氏との繋がりを持ちながら、足利氏の勢力拡大に貢献し、多くの子孫が後の有力武将となりました。謎に包まれた無断出家や、その後の足利一門の発展など、泰氏の生涯は、中世日本の歴史を語る上で重要な要素となっています。

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