跡見花蹊

跡見花蹊（あとみ かけい）

跡見花蹊は、天保11年（1840年）に生まれ、大正15年（1926年）に没した日本の教育者、日本画家、書家です。学校法人跡見学園の創設者として知られ、女子教育の発展に大きく貢献しました。本名は跡見瀧野といい、教育者としての活動だけでなく、画家や書家としても才能を発揮しました。

生い立ちと教育

花蹊は、摂津国西成郡木津村（現在の大阪市浪速区）で、寺子屋を営む父・重敬のもとに生まれました。幼少の頃から書や画に親しみ、12歳で石垣東山に入門、その後、禎野楚山に師事し画を学びました。17歳の時に京都へ遊学し、頼山陽門下の宮原節庵に漢籍、詩文、書を学び、画は円山応立・中島来章から円山派、日根対山から南宗派を学びました。これらの学びを通じて、写生と文人画の両方の要素を取り入れた独自の画風を確立しました。

教育者としての活動

1859年、大阪に戻り、父が運営していた私塾「跡見塾」を継ぎました。当時、跡見塾は、新しい塾頭が優秀であるとの評判から、関西の良家の子女が教養を学ぶ場所として人気を集めていました。1866年には京都で私塾を開きますが、1870年には閉じて上京、東京で私塾を開きました。1875年には、東京・神田中猿楽町に「跡見女学校」を設立しました。これは、日本で最初の女性のための教育機関であり、現在の跡見学園のルーツとなっています。

教育方針

幕末から明治維新という激動の時代を背景に、女子教育の重要性を強く認識した花蹊は、尊皇思想に基づいた教育方針を掲げました。跡見女学校では、伝統的な文化や風俗を尊重し、漢学、書道、茶道、体操などをカリキュラムに取り入れました。また、作文教育を通じて、知識だけでなく豊かな情操を育むことを重視しました。

画家・書家としての才能

花蹊は、教育者としての活動と並行して、日本画家、書家としても才能を発揮しました。明治5年と26年には、御前揮毫の栄誉を賜り、その画才は高く評価されました。また、書家としても「跡見流」と呼ばれる独自の書風を確立しました。1871年には、外務省から清国向けの画帖を依頼され、その作品は現在、台北の国立故宮博物院に所蔵されています。

人物像

1887年には、新聞に誤って訃報が掲載されるという出来事がありました。しかし、花蹊は動じることなく、普段通り授業を行い、学校の移転先を決めるなど、教育への情熱を示しました。このエピソードは、彼女の教育者としての熱意と、冷静な判断力を物語っています。

家族

花蹊の従妹である跡見玉枝も日本画家として活躍し、桜の絵を得意としました。跡見李子は養女で、跡見女学校の二代目校長を務めました。甥には浦和画家の跡見泰がいます。

著作

花蹊は、著書も残しています。

『管生輝帖』（1880年）
『をりをり草』（1915年）
『花の雫』（1929年、跡見李子編）
『女の道』（1941年）

参考文献

泉 雅博、植田 恭代、大塚 博『跡見花蹊 女子教育の先駆者』ミネルヴァ書房、2018年
上田正昭、津田秀夫、永原慶二、藤井松一、藤原彰『コンサイス日本人名辞典』（5版）三省堂、2009年。
岡本 信廣「（27）跡見花蹊 新島八重」『孤峰 : 江戸千家の茶道』第40巻、2018年、28-31頁
国立新美術館 (スポンサー) (2012). Collection of flyers, booklets, and exhibition catalogues from the Japan Art Catalog (JAC) project. [various publishers].
榊原 千鶴「『世界の花とならむ事を望む』– 跡見花蹊にみる"知"の継承と明治初期の女性教育」『名古屋大学文学部研究論集』、名古屋大学、2010年、135頁。
嶋田 英誠（著）、跡見学園女子大学花蹊記念資料館・学芸員課程（編）「作品紹介：跡見花蹊筆「万山畳翠図」（ばんざんじょうすいず）・跡見女学校生徒合作「花卉図」（かきず）双幅（長野市、真田宝物館蔵）」『『にいくら』』第19号、跡見学園女子大学、2014年3月、7-11頁
「十二書家　中林梧竹先生／跡見花蹊女史（＊書二点）」『太陽』第5巻第13号、1899年
高橋 勝介『跡見花蹊女史伝 : 伝記・跡見花蹊』大空社、東京〈伝記叢書, 58〉、1989年
依田 徹「（第7回）女子教育と茶 : 跡見花蹊と新島八重」『淡交』第69巻（通号: 857）、淡交社 編、2015年7月

関連資料

蒲生 重章「花蹊女史傳」：『近世偉人傳・初編』1877年
志垣 寛「跡見花蹊」『家庭科教育』第29巻、1955年、72頁–。
小山 雅子「東京国立博物館所蔵　跡見花蹊筆絵画作品について」『跡見花蹊　秋の名品展』2000年
嶋田 英誠「中国文化の中に於ける桃李と、跡見花蹊」『跡見学園女子大学文学部紀要』2003年
植田 恭代「『跡見花蹊日記』からみるカリキュラム--落合直文との関わりにふれて」『跡見学園女子大学文学部紀要』2008年
栗栖 淳「新刊紹介 花蹊日記編集委員会編『跡見花蹊日記』」アジア教育史学会 編『アジア教育史研究』第17巻、2008年
植田 恭代「跡見花蹊と跡見玉枝」『跡見学園女子大学文学部紀要』2009年9月
植田 恭代「『跡見花蹊日記』からみる白子」『跡見学園女子大学文学部紀要』2009年9月
榊原 千鶴「世界の花とならむ事を望む--跡見花蹊にみる"知"の継承と明治初期の女性教育」
小川 知子「跡見花蹊 : 女性教育に尽力した大阪ゆかりの女性画家」『適塾』、2018年
真辺 美佐「帝劇女優森律子と跡見女学校-跡見花蹊」『跡見学園女子大学人文学フォーラム』2020年
水谷 長志「MLA連携〔論〕を素地とする建学者アーカイブの構築の意義と展望 : 『跡見花蹊日記』のフルテキスト-データベースの構築とユニーク語彙の出現に係る検証の試みを中心に」『跡見学園女子大学文学部紀要』 2022-3
永井 信、小谷 亜由美、丸谷 靖幸「跡見花蹊日記を用いた明治・大正期における東京のサクラの開花季節記録のマイニング」『日本生気象学会雑誌』第59号、2022年11月
要 真理子、前田 茂「跡見花蹊から生まれた日本の前衛芸術」跡見学園女子大学文学部コミュニケーション文化学科 編『コミュニケーション文化』第16巻、2022年

展覧会図録

『江戸の閨秀画家』 板橋区立美術館〈江戸文化シリーズ11回〉、1991年
跡見花蹊『跡見花蹊秋の名品展 : 平成十二年度企画展』跡見学園女子大学花蹊記念資料館、2000年

関連項目

学校法人跡見学園
跡見学園女子大学
跡見学園女子大学短期大学部
跡見学園中学校・高等学校
落合直文
日根対山
森律子

外部リンク

学祖・跡見花蹊 学校法人跡見学園
跡見花蹊日記 岩田秀行らによる花蹊の日記の公開

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