軍隊に演説するアルフォンソ・ダヴァロス

『軍隊に演説するアルフォンソ・ダヴァロス』は、イタリア盛期ルネサンスの巨匠ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1540年から1541年頃に制作した油彩画です。この作品は、ヴァスト侯爵アルフォンソ・ダヴァロスが軍隊に向けて演説する場面を描いており、歴史的な出来事と侯爵の政治的な意図を映し出しています。

作品の背景

アルフォンソ・ダヴァロスは、カスティーリャ出身の貴族であり、パヴィアの戦いやチュニス征服などの戦いで活躍しました。1538年にはミラノ総督に任命されましたが、その統治はうまくいかず、1544年にはフランス軍に敗北し、神聖ローマ皇帝カール5世の信頼を失いました。

絵画が描かれた背景

この絵画は、単なる肖像画ではなく、1537年にミラノで起きたスペイン軍の反乱を鎮めた出来事を描いた歴史画です。給与の遅配に不満を持った兵士たちが反乱を起こした際、ダヴァロス侯爵は雄弁な演説によって兵士たちの忠誠心を呼び起こし、反乱を鎮圧しました。侯爵は、給与が支払われることを約束し、その保証として息子フランチェスコ・フェランテを人質として残しました。

作品の詳細

ティツィアーノは、演説中のダヴァロス侯爵が右腕を上げ、力強く語りかける姿を描いています。息子のフランチェスコが侯爵の兜を持つ姿も描かれており、これは侯爵が演説の際にティツィアーノに描いてもらうよう契約したものです。構図は古代ローマの古典的なモデルに影響を受けており、侯爵を高い位置に立たせ、その雄弁さを強調しています。

作品の政治的な意図

ダヴァロス侯爵がこの絵画を依頼した背景には、政治的な意図がありました。この作品は、1537年の反乱を鎮圧するために、ミラノ市民からの借金で兵士への給与を肩代わりした侯爵が、自己弁護のために制作したものです。また、同様の状況で譲歩しなかったフェランテ・ゴンザーガを批判したカール5世に対し、侯爵が平和的な解決を図ったことをアピールする意図もありました。侯爵は、反乱を武力ではなく平和的な手段で鎮圧し、支払いの約束を守るために息子を人質として残したことを強調したかったのです。

作品の変遷

この作品は、1539年に侯爵自身によってティツィアーノに依頼され、1541年にミラノでカール5世の訪問に合わせて初めて公開されました。作品に満足した侯爵は、ティツィアーノに毎年50ドゥカートの年金を贈りました。その後、作品はゴンザーガ家やイングランド王チャールズ1世の手に渡り、王の処刑後にフェリペ4世が購入しました。そして、1828年にフェルナンド7世によってプラド美術館に寄贈され、現在に至っています。

この作品は、歴史的な出来事を背景に、ダヴァロス侯爵の政治的な思惑、そしてティツィアーノの卓越した画力が組み合わさった、見応えのある作品です。

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