辻堂団地

神奈川県藤沢市の海岸部に広がる辻堂団地は、単一の集合住宅ではなく、いくつかの異なる主体によって管理・運営される住宅群が集合した大規模団地です。その所在地は藤沢市辻堂西海岸であり、湘南エリアにおける重要な居住地区の一つとなっています。この団地の成り立ちには、この地がたどってきた特別な歴史が深く関わっています。

現在、辻堂団地を形成している主な住宅群としては、都市再生機構（UR）が管理する辻堂団地、神奈川県住宅供給公社が所管する辻堂海岸団地、神奈川県教職員住宅である辻堂西海岸アパート、そして藤沢ニューライフなどが挙げられます。このうち、URの辻堂団地は、かつての日本住宅公団が手掛けた賃貸住宅として、日本で初めてアルミサッシが本格的に採用された先進的な事例として知られています。ここは1913戸の賃貸住宅と280戸の分譲住宅から構成される大規模なエリアです。神奈川県住宅供給公社の辻堂海岸団地は、団地エリアの北側に位置し、地域住民にとって便利なスーパーマーケット、オーケー辻堂店が敷地内にあります。神奈川県教職員住宅の辻堂西海岸アパートは団地の中央部に、藤沢ニューライフは南部にそれぞれ所在し、多様な形態の住宅が集まる地区となっています。過去には、国家公務員向けの合同宿舎である国家公務員辻堂団地や、日産自動車の社宅である日産辻堂家族アパートなどもこのエリアに存在していました。

辻堂団地の歴史は、第二次世界大戦後の土地利用の転換から始まります。もともとこの一帯は、相州炮術調練場や横須賀海軍砲術学校辻堂演習場として利用され、戦後は在日米海軍の演習場となっていました。1959年6月25日にこの広大な演習場が日本に返還されたことが、団地開発の第一歩となります。返還された土地は大蔵省管財局の管轄する国有地となりました。
翌1960年5月には、旧演習場の一部が学校用地へと転用されます。さらに1962年3月15日には、約4万7千坪に及ぶ土地が日本住宅公団へ現物出資され、団地建設の具体的な動きが加速しました。同年7月には藤沢市立白浜養護学校が、そして1964年9月には藤沢市立高砂小学校がそれぞれ旧演習場跡地に移転開校するなど、教育施設の整備も進められました。また、1963年3月には約8千7百坪が国家公務員向けの合同宿舎用地として転用されています。
団地のインフラ整備も同時並行で進められ、1964年8月には辻堂南部下水処理場（現在の辻堂浄化センター）の運転が開始されました。そして、この年の10月、日本住宅公団による辻堂団地の入居が始まりました。団地への入居開始とともに、地域住民の交通手段を確保するため、10月6日には藤沢駅と辻堂団地を結ぶバス路線の運行が開始され、翌1965年12月には急行バスも登場するなど、交通アクセスが整備されていきました。
地域生活に必要な施設も徐々に拡充されます。1967年には団地内の店舗新設に関する請願が国会で採択され、商業施設の整備も促されました。1970年には高砂小学校から学区を分割して藤沢市立浜見小学校が開校、1973年には藤沢市立高浜中学校が開校するなど、児童生徒の増加に対応した学校の新設が続きました。食生活を支える施設として、1971年には南部学校給食センターが開設され、1973年4月にはオーケー辻堂店が開店するなど、生活利便性が向上していきます。交通網も拡充され、1971年4月には辻堂駅と辻堂団地を結ぶ深夜バスの運行が開始されました。
その後の団地や周辺施設の変遷としては、1992年に南部学校給食合同調理場が廃止された後、1995年にはその施設が解体されるといった変化がありました。一方、住宅施設の拡充も行われ、1993年には住宅・都市整備公団（当時）の辻堂団地に60戸が増築されています。既存の施設も改修や建て替えが進み、1995年には藤沢市立高砂小学校の新校舎が、1997年には藤沢市立白浜養護学校の新校舎がそれぞれ竣工しました。また、1997年には辻堂南部下水処理場が辻堂浄化センターに名称変更されました。
交通網の再編・拡充も続き、2000年には辻堂駅と辻堂西海岸を結ぶバス路線が、2002年には藤沢駅と辻堂団地を結ぶ深夜バスが運行を開始しました。比較的近年では、2016年12月に辻堂駅からのバス路線が辻堂西海岸から辻堂団地まで延伸されるなど、公共交通の利便性向上も図られています。
団地造成以前、高浜中学校の西側にある丘は「貝殻山」と呼ばれていたなど、開発前の自然環境も知られています。
このように、辻堂団地は旧軍用地の広大な土地を基盤として、段階的に計画・整備され、学校、商業施設、交通網といった生活基盤が一体的に築かれてきた大規模な住宅地域であり、藤沢市の海岸エリアにおける発展の歴史を物語る存在と言えます。

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