辻新次:明治日本の教育制度を築いた巨人
辻新次(つじ しんじ、
1842年-
1915年)は、
明治時代の日本を代表する文部
官僚であり、近代日本の教育制度確立に多大な貢献を果たした人物です。
松本藩士の家に生まれた彼は、幼少期から優れた学力と向上心を持ち、
藩校で
朱子学を学ぶ傍ら、
蘭学や英学にも精通しました。
揺るぎない志と教育への転身
若き日の辻は軍人になることを志し、戊辰戦争にも参加しようとしましたが、藩に呼び戻されました。その後、開成所(
東京大学の起源)で火薬製造中に負傷したことをきっかけに、教育の道へと進むことを決意します。開成所で化学教授手伝並となった後、私塾を開き、近代土木界の重鎮となる
古市公威など多くの優秀な人材を育成しました。
明治維新後、辻は
文部省に入省し、以後20年以上にわたって日本の教育行政の中枢を担いました。
学制の制定、
東京大学の設立、教育令の制定など、数々の重要な政策に関与し、その手腕は高く評価されました。「
文部省の辻か、辻の
文部省か」と言われるほど、その存在感は圧倒的でした。
特に、
学制取調掛として
箕作麟祥らと共に
学制の起草に関わった功績は計り知れません。
学制の公布後も、大学南校(現在の
東京大学)校長や東京外国語学校校長事務取扱などを歴任し、教育行政に尽力しました。また、文部
次官に就任した際には、
帝国大学令、
師範学校令、
中学校令などの公布に携わり、近代的な教育制度の構築に大きく貢献しました。
教育界の指導者
文部省在職中、辻は多くの教育団体を牽引しました。大日本教育会(後に帝国教育会)の初代会長として、教育の普及と発展に尽力し、長年にわたって会長職を務めました。その在任期間は約27年に及び、教育界における彼の影響力は絶大でした。
多方面での活躍
文部省退官後も、辻の活躍は止まることはありませんでした。貴族院議員、高等教育会議議員、教育調査会委員などを歴任し、教育行政に携わり続けました。さらに、仁寿
生命保険社長や企業経営にも手腕を発揮し、教育界以外でも多大な貢献をしました。
人物像
辻は穏和で円満な性格を持ち、人望も厚かったと伝えられています。その勤勉さ、誠実さ、そして教育に対する熱い情熱は、周囲から深く尊敬されていました。
森有礼文部大臣からは「良き女房役」と評されたほどです。また、彼は私財を投じて教育事業に貢献し、故郷への寄付も惜しみませんでした。
教育への揺るぎない信念
辻新次の生涯は、日本の近代教育史そのものです。彼は教育を社会発展の基盤と捉え、その実現に生涯を捧げました。彼の功績は、今日の日本の教育制度に今もなお息づいています。彼の教育に対する揺るぎない信念と、その実現に向けた献身的な努力は、後世に語り継がれるべき偉大な業績と言えるでしょう。
年表
1842年(天保13年):信濃国(長野県)に生まれる。
1866年(慶応2年):開成所化学教授手伝並
1871年(明治4年):文部省入省
1872年(
明治5年):
学制公布
1886年(明治19年):文部次官就任
1892年(
明治25年):
文部省退官
1915年(大正4年):死去
参考文献
安倍季雄 編『
男爵辻新次翁』
* 石川半山、曽根松太郎「帝国教育会々長辻新次君」『当世人物評』