辻茂

辻 茂（つじ しげる）

美術史研究の巨匠、西洋美術史の泰斗

辻茂（1930年3月29日 - 2017年7月2日）は、日本の美術史学者であり、東京藝術大学の名誉教授でした。西洋美術史を専門とし、特にイタリア美術史の研究において、その深い知識と洞察力で多くの後進を指導しました。

生涯と学問への道

福井県敦賀市に生まれた辻茂は、東京藝術大学美術学部藝術学科を卒業後、イタリアに留学し、本場の美術に触れました。帰国後は、母校である東京藝術大学で教鞭をとり、助教授、教授を歴任しました。1997年に定年退官するまで、多くの学生を育て、日本の美術史研究に貢献しました。

遠近法研究の第一人者

辻茂の研究は、ルネサンス期の遠近法に焦点を当てたものが多く、1996年には『遠近法の発見』でマルコ・ポーロ賞を受賞するなど、その業績は高く評価されています。ルネサンス美術における遠近法の発展を詳細に分析し、その歴史的、技術的な意義を明らかにしたことは、美術史研究における重要な貢献と言えるでしょう。

幅広い著書と翻訳

辻茂は、研究活動だけでなく、多くの著書や翻訳を通じて美術史の普及にも努めました。著書には、『詩想の画家 ジョルジョーネ』や『遠近法の誕生 ルネサンスの芸術家と科学』などがあり、翻訳では、リオネロ・ヴェントゥーリの『美術批評史』やアンドレ・シャステルの『人類の美術17　イタリア・ルネサンスの大工房 1460-1500』などを手掛け、海外の美術史研究を日本に紹介しました。これらの著作は、美術史を学ぶ人々にとって、重要な資料となっています。

退官後の生活と晩年

東京藝術大学を退官後、辻茂はイタリアに居を移し、研究生活を続けました。2011年には、その長年の功績が認められ、瑞宝中綬章を受章しました。晩年は、肺炎のため、入院先のイタリア中部オルビエトの病院で生涯を閉じました。

主な著作と編著

『詩想の画家 ジョルジョーネ』新潮社、1976年
『遠近法の誕生 ルネサンスの芸術家と科学』朝日新聞社、1995年
『遠近法の発見』現代企画室、1996年
『講談社版世界美術 第5 ローマ』編、講談社、1965年
『世界美術全集 第2 ミケランジェロ ティツィアーノ』河出書房新社、1967年
『世界の美術館 第29 ブレラ美術館』編、講談社、1970年
『ファブリ世界名画集 6 ティツィアーノ』平凡社、1971年
『ファブリ世界名画集 69 ジョヴァンニ・ベリーニ』平凡社、1973年
『大系世界の美術 6 ローマ美術』責任編集 学習研究社、1974年
『世界美術全集 8 ティツィアーノ』集英社、1978年
『アッシージのサン・フランチェスコ聖堂 建立初期の芸術』岩波書店、1978年（共著）

主な翻訳

リオネロ・ヴェントゥーリ『美術批評史』みすず書房、1963年、第2版1971年
アンドレ・シャステル『人類の美術17　イタリア・ルネサンスの大工房 1460-1500』新潮社、1969年（監修:摩寿意善郎）
チェンニーノ・チェンニーニ『絵画術の書』岩波書店、1991年／岩波文庫、2025年（編訳・解説、石原靖夫・望月一史訳）

辻茂の遺産

辻茂は、その優れた研究業績と後進育成への貢献により、日本の美術史研究に大きな足跡を残しました。彼の研究は、現代の美術史研究においても重要な基礎となっており、その影響は今後も長く続くでしょう。特にルネサンス美術における遠近法研究は、彼の代表的な業績として、美術史研究において重要な貢献となりました。

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