近代文学 (雑誌)

『近代文学』の歴史

『近代文学』は、1945年に創刊された日本の文芸雑誌で、戦後の文学シーンに大きな影響を与えました。もともとは、荒正人、平野謙、本多秋五、埴谷雄高、山室静、佐々木基一、小田切秀雄といった7人の同人によって立ち上げられました。その後、1947年には、久保田正文、花田清輝、平田次三郎、大西巨人、野間宏、福永武彦、加藤周一、中村真一郎などが新たに参加し、サークルは広がりを見せました。

創刊背景と理念

創刊した当初のメンバーは、戦前のプロレタリア文学運動に深く関わっていた人物が多く、戦争を経た経験を通して「文学の自律性」を強く訴えていました。特に創刊号と第2号において、文学的に対極にある小林秀雄と蔵原惟人を招いた座談会は、異なる視点を持つ者たちが対話する意義を示しています。このような試みは、文学の多様性を求め、新しい文学観を形成するための重要な一歩となったのです。

その後、多くの同人は新日本文学会に参加しましたが、プロレタリア文学の流れとは一線を画しました。特に、荒正人と平野謙は中野重治との間で「批評の人間性」について論争を展開し、それが同人たちの態度の変化を象徴しています。

近代文学賞の設立

1960年には、雑誌に掲載された優れた作品に贈られる「近代文学賞」が設立されました。この賞は、吉本隆明や辻邦生を含む著名な作家たちに授与され、大きな評価を受けました。1964年までの5回にわたって授与が行われ、当時の文学界を盛り上げる役割を果たしました。

主な掲載作品

『近代文学』には多くの著名な作品が掲載されました。一例として、埴谷雄高の『死靈』は1946年から1949年にかけて連載され、文芸誌の中でも特に重要な位置を占めています。また、安部公房の『壁―S・カルマ氏の犯罪』は1951年に掲載され、後に芥川賞を受賞しました。さらに、辻邦生の『廻廊にて』は、1962年に発表され、その後近代文学賞を受賞するなど、名作が数多く生まれました。

座談会の意義

雑誌内で行われた座談会も非常に注目されます。特に、1946年1月12日に開かれた「コメディ・リテレール 小林秀雄を囲んで」では、作家たちの戦時中の姿勢についての議論が交わされ、小林自身が参加者の一人からコメントを受ける場面がありました。これにより、文学が持つ社会的役割や創作に対する責任が語られました。

そして、同年10月には、伊吹武彦が主宰する『世界文学』において近代文学同人の座談会「近代文学の反省」が展開されました。このような座談会は、文学における反省や新たな方向性を探求する場でもあり、同人たちが当時の社会的状況に対して敏感に反応していることが伺えます。

終わりに

『近代文学』は、1964年に終刊を迎えましたが、その影響は現在も色濃く残っています。戦後文学の発信基地としてさまざまな文学的対話を促し、新しい文学観を形成する重要な役割を果たしたこの雑誌は、日本の文芸史に名を刻んでいます。

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