近松行重

近松行重：赤穂浪士四十七士の知られざる生涯

近松行重（ちかまつゆきしげ）は、寛文10年（1670年）に誕生した江戸時代前期の武士です。赤穂浪士四十七士の一人としてその名を歴史に刻んでいます。通称は勘六、変名として森清助、田口三介などを使用しました。

武家としての出自と赤穂藩への仕官

近松行重は、源義高の末裔を称し、近江国佐々木六角家の典医を務めた近松家の出身です。祖父である近松伊看は豊臣秀頼に仕え、後に法眼に叙せられた医師であり、その後、三次浅野家に、そして浅野長直の懇願により赤穂藩の典医として仕えたと伝えられています。父・行正もまた医師であったと言われています。しかし、『誠忠義士伝』には、行重は赤穂浅野氏の譜代家臣であったと記されており、赤穂の大石神社には、近松家が先祖代々使用した槍が奉納されています。このことから、医師の家系でありながら、武士として赤穂藩に仕えていた可能性も示唆されます。

浅野家改易と吉良邸討ち入り

元禄14年（1701年）3月14日、江戸城松之大廊下で浅野長矩が吉良義央に刃傷に及んだ事件が発生。浅野長矩は即日切腹、赤穂藩は改易となりました。この事件後、行重は早水満尭とともに高野山へ行き、浅野長矩の碑を建立。その後、近江国野洲郡蛭田（現・滋賀県野洲市）にある近松家本家に身を潜め、一時本家近松伊井の猶子となりました。大石良雄ら同志と連絡を取り合いながら、元禄15年（1702年）2月には、江戸急進派の鎮撫のため吉田兼亮と共に江戸へ下りました。

江戸では田口三介と変名し、吉田と共に新麹町に借家を借りて潜伏。8月には京都に戻り、大石良雄に江戸の状況を報告、10月には大石と共に再び江戸へ下りました。江戸では三浦十右衛門と変名し、石町三丁目に潜んでいました。

そして迎えた元禄15年12月14日、吉良邸討ち入り。行重は表門隊に属し、屋外の守りにつきました。激しい戦闘の中で泉水に突き落とされるも、味方の助けにより一命を取り留めました。この時、左股に深手を負い、駕籠に乗せられて引き上げられたと伝えられています。

切腹とその後

吉良義央が斬殺され、討ち入りが成功した後、行重は細川綱利の屋敷に預けられました。しかし、元禄16年（1703年）2月4日、江戸幕府の命により切腹、34歳でその生涯を閉じました。墓所は泉岳寺で、戒名は刃随露劔信士です。

子孫と家臣

行重には妻子がなく、甥である奥田行高の子・仁尾清十郎は徳島藩士となりましたが、家中との対立から心労が重なり24歳で早世しました。異母妹のお百にも実子がなく、近松・仁尾家の血統は途絶えました。異母弟の一人である文良は出家し、谷中長福寺の和尚になったと伝えられています。

行重には甚三郎という家臣がいました。浪人となった行重は甚三郎に暇を出そうとしましたが、甚三郎はあくまでも仕え続けました。討ち入り前夜には大石良雄の命を受け、瑤泉院に書類を届け、その後故郷である近江国野洲郡木部村に戻り、帰農したとされています。徳島県徳島市の慈光寺には行重の父母の墓、滋賀県野洲市の錦織寺には甚三郎の墓が残されています。

創作と史実

創作においては、甚三郎が討ち入り当夜に門外で警備を行い、赤穂浪士が泉岳寺へ引き上げる際に、蜜柑や餅を差し出したという話が有名です。これは『赤穂義士修養実話』に記され、芝居でも描写されていますが、同書の信憑性には疑問が残ります。史実では、泉岳寺に到着するまで義士たちは飲食をしていませんでした。

遺品

近松家伝来の大槍は、赤穂大石神社・義士史料館に所蔵されています。近松行重の生涯は、忠義と悲劇が交錯する時代を象徴する物語として、今も人々の心に深く刻まれています。

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