近江正俊

近江正俊（おうみまさとし）は、1925年に東京都で生まれ、1984年10月24日に59歳でその生涯を閉じた、日本の著名なアナウンサーです。

生涯とキャリア

開成中学校を卒業後、1946年に拓殖大学南洋語学科で学びを終えました。実家は日蓮宗の僧侶という家庭環境でした。

幼い頃から、多様な民族が暮らすマレー半島での生活に強い憧れを抱いていました。特にゴム園での労働や、伝説の人物ハリマオ、そして南十字星といった異国のイメージに惹かれ、単なる興味を超えて、自ら異民族の一員として「善意に満ちた東亜協栄体」を築きたいという理想を胸に抱いていました。この夢を叶えるため、開成中学校を経て拓殖大学の南洋語学科へと進み、マレー語の習得を目指しました。

しかし、勉学に励むべき学生時代は、第二次世界大戦の最中でした。専攻していたマレー語は「敵性語」と見なされるようになり、大学は勤労動員が中心となります。近江氏は陸軍の戦車二等兵として入隊し、本土決戦に備えた陣地構築のための穴掘り作業に従事している最中に終戦を迎えました。

戦後、1950年に日本放送協会（NHK）に入局し、名古屋中央放送局でアナウンサーとしての第一歩を踏み出しました。NHK時代の同期には、酒井広氏、鶴田全夫氏らがいました。その後、1952年3月には、経験者採用という形でラジオ東京（当時のKR、現在のTBS）へ移籍します。

TBSでの活躍

ラジオ東京に移籍後、近江氏は主にスポーツ実況や朗読番組を担当し、活躍しました。同時期にNHK大阪から移籍した小坂秀二氏と共に、ラジオ東京として歴史上初めてのスポーツ中継「巨人対毎日定期戦」（後楽園球場）を担当（近江氏は2日目を担当）し、草創期のラジオ東京におけるスポーツ放送の礎を築きました。大相撲中継では、テレビ試験放送時代から本放送開始初期にかけて小坂氏らと共に実況を担当し、プロ野球やプロボクシング中継でもその声は広く知られました。

また、アナウンサーとしての表現力は高く評価され、1959年4月10日に行われた皇太子（現上皇陛下）・美智子妃殿下のご成婚パレード中継では、歴史的な実況を担当し、国民に慶事を伝えました。

1963年11月からは報道局ニュース部へ異動し、1965年12月には報道局解説室委員とニュース部を兼務する形となります。1967年11月にはアナウンサー研修室が設置されると、報道局解説室委員と兼任でその委員に就任し、後進の指導にもあたります。1970年7月からはラジオ本部アナウンス室専属となりました。報道・スポーツアナウンサーとして「ソフトな話術、的確な表現」は、近江氏の代名詞となりました。特に、1968年から1975年にかけては、夕方の全国ネットテレビニュース番組『JNNニュースコープ』のメインキャスターを務め、お茶の間の顔としても広く認識されました。アナウンサーとしての業務に加え、アナウンス室付部長やラジオ本部次長兼アナウンス室長といった要職も歴任し、組織運営にも深く関与しました。

第二の人生と晩年

1976年3月、ラジオ本部専属となり、アナウンス職からは一線を退いた後、同年9月には、幼少期からの「多民族国家の中でアジア人として生きたい」という長年の夢を実現するため、TBSの勇退制度を利用して会社を退職する決断をしました。そして、1977年7月からは国際交流基金の派遣により、インドネシアの古都スラバヤにあるアイルランガ大学で日本語教師として、新たな人生の扉を開きました。

しかし、新たな生活も病魔によって中断を余儀なくされます。1980年3月、網膜剥離による眼底出血により、突然左目の視力を失います。治療のため一時帰国し手術を受けますが、残念ながら成功しませんでした。それでもインドネシアへの情熱は冷めず、5月末には再びスラバヤへ戻りました。同年11月、体調の悪化により再び日本へ帰国。その後は白血病を患い、懸命な闘病生活を送りました。1984年10月24日、心不全のため、満59歳でその波乱に富んだ生涯を閉じました。

アナウンサーとしてだけではなく、国際交流の担い手としても活躍した近江氏の業績は多岐にわたります。インドネシアでの経験を綴った著書『脱サラ 50歳からの人生 日本語教師のインドネシア日記』や、『雷電と踊った男』などの著作も残しており、その多才ぶりを示しています。映画にもアナウンサー役などで出演するなど、幅広い分野で活動しました。

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