近江鉄道デハ1形電車

近江鉄道デハ1形電車

近江鉄道デハ1形電車は、かつて近江鉄道が保有していた電車です。直流600Vから直流1500Vへの電化方式変更に伴い導入されました。本項では、デハ1形を改造したデハニ2形についても記述します。

導入の経緯

大正時代後期、各地で発電所建設が進み、それに伴い地方私鉄の電化が進みました。近江鉄道も全線電化を目指し、まず彦根～多賀間を直流600Vで電化しました。しかし、経営状況が厳しかったため、全線電化に必要な資金が不足していました。そこで、滋賀県下を配電地域としていた宇治川電気に経営権を譲渡することになりました。宇治川電気の資金力により、1928年3月に高宮～貴生川間の電化工事と既存区間の昇圧工事が完了し、翌4月から電車の運行を開始しました。この時に導入されたのがデハ1形です。

前身

デハ1形の前身は、1923年に神戸姫路電気鉄道（神姫電鉄）が明石～姫路間を開通させた際に投入した1形です。この車両は幅2,740mmと当時としては大柄で、直流1500V電化に対応した高規格車両でした。しかし、1927年に宇治川電気に買収され、兵庫電気軌道と合併して宇治川電気電鉄部となった際、兵庫～明石間の旧兵庫電気軌道の路線規格が低く、架線電圧も600Vであったため、高規格の神姫電鉄1形は入線できませんでした。そこで、宇治川電気傘下であった近江鉄道へ、神姫電鉄1形の車体が譲渡されることになりました。譲渡にあたっては、川崎造船所で改造と艤装が行われ、近江鉄道デハ1形1～9となりました。

車体

デハ1形は、長さ14.7mのシングルルーフ木造車体で、両運転台の制御電動車です。側面扉は片側3ヶ所、前面は非貫通の3枚窓です。側面窓配置は1D222D222D1となっています。屋根上にはお椀型ベンチレーターを装備し、集電装置はトロリーポールからパンタグラフに変更されました。特徴的なのは、車体側面に広告用の枠が設けられており、イベントや沿線の観光案内などを記載した鉄板を挿入して使用されていたことです。

運用開始後

デハ1形は、近江鉄道の主力車両として、単独または付随車を1～2両連結して運行されました。終着駅では、折り返し時に連結位置を付け替える機回し作業が行われていました。

改造

前照灯: 登場時は腰部に掛替式の前照灯が設置されていましたが、1929年に屋根上へ移設されました。移設後も、取り付け具の帯板が残っていました。
デハニ2形への改造: 1932年には、デハ1形2～9に手荷物室が設置され、デハニ2形2～9に改称されました。手荷物室は、座席の一部を撤去して鎖で仕切った簡易なもので、荷物を積載しない時は立席としても使用されました。これにより、旅客定員は92名から76名に減少し、荷重は1トン増加しました。
方向幕: 登場時は運転台横に小型の方向幕が設置されていましたが、後に使用されなくなり、方向板が用いられるようになりました。
歯車比変更: 1947年には、歯車比が2:34から4:93に変更されました。
片運転台化: 1956年以降、西武鉄道から多くの制御車が転入したため、終着駅での機回し作業が不要となり、デハニ3・4が片運転台化されました。

後身

1950年代後半になると、車体の老朽化が目立ち始めたため、1960年から鋼体化改造が行われ、モハ1形、モハ7形、モハ9形へと形式変更されました。

モハ7形: デハニ4・7は、1960年にモハ7形モハ4・7に改造されました。実際には、西武鉄道モハ211、モハ214の車体を流用したものです。モハ4は、後に衝突事故で破損し、復旧時にモハ8に改番されました。
モハ1形: デハニ2～6およびデハニ9は、1963年から1966年にかけて自社工場で車体を新製し、モハ1形モハ1～6となりました。
モハ9形: デハ1は、1963年にモハ9形モハ9に改造されました。これも、西武鉄道のクハ1214・1215の車体を流用したものです。

車番振替

デハニ4はモハ7形モハ4に改造された直後に衝突事故に遭い、復旧時に忌み数としてモハ8に改番されました。それに伴い、デハニ8がデハニ4に改番されました。そのため、車番と実際の車両が一致しないという複雑な経緯をたどりました。

このように、近江鉄道デハ1形電車は、その誕生から改造、そして後身の車両に至るまで、さまざまな変遷を経てその役目を終えました。

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