逃げ去る恋

『逃げ去る恋』（1979年）は、フランソワ・トリュフォー監督による「アントワーヌ・ドワネルの冒険」シリーズの5作目にして最終作です。

製作の背景

トリュフォー監督は、前作『家庭』でシリーズを完結させる意向でしたが、デンマークでのシリーズ連続上映が好評を博したことをきっかけに、本作の構想を得ました。過去作からの回想シーンを織り交ぜた、実験的な構成が特徴です。

シリーズを通して、主人公アントワーヌ・ドワネルを同一人物であるジャン＝ピエール・レオが演じている点も特筆すべき点です。20年という歳月をかけて同一人物を演じ続けることで、シリーズならではの演出効果を生み出しています。

ストーリー

アントワーヌは印刷所で働きながら、自伝的小説を出版。レコード店員のサビーヌと交際する一方で、妻クリスチーヌとは離婚。
息子アルフォンスを音楽学校の合宿へ送り出す駅で、初恋の相手コレットと再会します。

キャスト

アントワーヌ・ドワネル：ジャン＝ピエール・レオ
クリスチーヌ・ダルボン：クロード・ジャド
コレット：マリー＝フランス・ピジェ
サビーヌ：ドロテ

解説

コレットが出張で訪れるのは『暗くなるまでこの恋を』の舞台、エクス＝アン＝プロヴァンスです。
映画館で上映されている映画は『私のように美しい娘』です。
ダニ演じるリリアーヌは『アメリカの夜』から再登場。同作でリリアーヌに振られるアルフォンスはジャン＝ピエール・レオが演じており、アントワーヌの息子の名前もアルフォンスであるという繋がりがあります。
アントワーヌがコレットを追って飛び乗る列車や、非常停止装置で列車を止めるシーンは、それぞれアルフレッド・ヒッチコック監督の『北北西に進路を取れ』、『三十九夜』のパロディです。
アントワーヌの小説の題名「悪童（サル・ゴッス）の写本」は、ヴォイチェフ・ハス監督のポーランド映画『サラゴッサの写本』が元ネタです。
リリアーヌとクリスチーヌが共同で描くポスターは、エリック・ロメール監督の『聖杯伝説』をモチーフにしています。
クリスチーヌのセリフ「紙で鼻をかむのはまっぴら」は、『夜霧の恋人たち』と『家庭』におけるアントワーヌのセリフの引用です。
ラストシーンに登場するカップルは、リシャール・カナヤン夫妻。『ピアニストを撃て』や『大人は判ってくれない』にも出演しています。

関連作品

* アメリ：破り捨てられた写真を繋ぎ合わせるシーンや、断片的なエピソードをモンタージュのように繋ぎ合わせた構成が、本作からの影響を受けています。

『逃げ去る恋』は、「アントワーヌ・ドワネルの冒険」シリーズの集大成として、過去作へのオマージュや引用が散りばめられた作品であり、トリュフォー監督の映画愛が感じられる作品です。

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