連合軍専用客車

連合軍専用客車：占領下の日本を走った特別な車両たち

連合軍専用客車とは、第二次世界大戦終結後、日本を占領した連合国軍が日本の国有鉄道（国鉄）に供出させ、軍事輸送に使用した客車群のことです。敗戦後の混乱期、日本の鉄道は連合軍の管理下に置かれ、これらの客車は特別な存在として、日本の社会情勢を反映していました。

接収と改造

1945年8月15日、日本はポツダム宣言を受諾し、連合国軍による占領が開始されました。連合国軍最高司令官総司令部（GHQ）の管理下に入った日本の鉄道は、連合軍の輸送ニーズに応えるため、優良な客車を供出することを要求されます。これにより、国鉄の客車が接収され、連合軍専用の客車として改造・運用されることになりました。

当時、日本の客車は戦時中の酷使により荒廃が進んでいましたが、連合軍専用客車は徹底的に整備され、日本人には立ち入ることのできない特別な空間として、羨望と畏怖の対象となりました。

連合軍専用客車の特徴

接収された客車は、連合軍鉄道輸送司令部（RTO）の管理下で、日本人用客車と明確に区別されました。当初は軍呼称や軍番号が書き込まれましたが、RTOの兵士たちがカタカナ表記を理解できなかったため、混乱を避けるために各車両に固有の軍名称（州名、都市名、鳥の名前など）が与えられ、車体中央窓下に白ペンキで標記されました。また、車体塗色も日本人用車両より明るい独自の茶色に塗り替えられ、一等車を示す白帯が追加されました。白帯の中には当初「U.S.ARMY」と表示されましたが、後にイギリス軍への配慮から「ALLIED FORCES」に変更されました。

多種多様な専用客車

連合軍専用客車は、用途に応じて様々な種類が存在しました。

寝台車: 一等寝台車（個室、区分室）、二等寝台車（開放式）があり、軍番号1000番台から1500番台が付与されました。
合造車: 一等・二等寝台合造車、寝台・座席合造車など、多様なニーズに対応した車両が存在しました。
特別車: 連合国政府や軍の高官輸送用で、会議スペースやキッチンを備えた豪華な内装が特徴でした。軍番号は1700番台。
軍団長車・地区司令官車: 高級な一等寝台車で、それぞれ軍団長、地区司令官の専用車として使用されました。
食堂車: 兵士向けの簡易な食堂車で、調理設備やテーブル付きの座席が設けられました。
展望車: 一等展望車で、特別な眺望を提供しました。
座席車: 二等座席車が中心で、兵員輸送にも用いられました。
座席荷物合造車: 座席と荷物室を組み合わせた合造車。
酒保車・販売車: 基地を巡回し、食料品などを販売する移動店舗として機能しました。\用途記号は軍務車の「ミ」
クラブ車・巡回車: 喫茶や軽食を提供するラウンジ車で、巡察用にも改装されました。
病院車: 傷病兵輸送用で、ベッドや広幅の出入口が特徴です。
衛生車: 移動研究所や衛生教育用に使用されました。病院車に準じた設備を持つ車両も存在しました。
荷物車: 軍事物資や郵便物を輸送しました。
ラジオ車: 軍用無線設備を搭載し、通信を担いました。\用途記号は軍務車の「ミ」
事務車: RTOの事務所として使用されました。\用途記号は軍務車の「ミ」
部隊料理車: 兵員輸送列車で食事を調理するために連結されました。
部隊用簡易寝台車: 兵員輸送用の簡易寝台車。朝鮮戦争勃発後に大量増備されました。
暖房車: 冬季に客車へ暖房用蒸気を供給しました。
区分軍用客車: 客室の一部を連合軍専用とした車両。
雑種軍用客車: 上記に区分されない様々な用途の軍務車。
* 軍用運搬車: 軍用自動車輸送に使用された長物車。

連合軍専用客車の終焉

1952年4月28日の対日講和条約発効により占領が終了すると、連合軍専用客車の多くは日本側に返還されました。しかし、一部の車両（主に郵便車）はその後も駐留軍専用客車として使用され、1970年（昭和45年）までその姿を見ることができました。


連合軍専用客車は、占領という特殊な時代背景の中で生まれた、日本の鉄道史における特異な存在でした。これらの客車は、敗戦後の日本の社会情勢、連合軍の存在、そして鉄道技術の変遷を物語る貴重な遺産と言えるでしょう。

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