連邦直轄部族地域

連邦直轄部族地域（FATA）とは

連邦直轄部族地域（Federally Administered Tribal Areas, FATA）は、パキスタン北西部に存在した、部族による自治が認められていた地域です。通称「トライバルエリア」とも呼ばれ、パキスタン政府の直轄下にありましたが、実質的には現地の部族が自治を行っていました。この地域は、その特殊な状況から、テロ組織や反政府武装勢力の温床となり、国際社会からも注目されてきました。

歴史的背景

FATAは、1901年にイギリス領インド帝国時代に制定された「辺境犯罪規則」が適用されていた地域でした。この規則により、パキスタンの法律制度が十分に浸透せず、部族の伝統的な慣習が優先されてきました。そのため、犯罪が横行しやすく、テロ組織や反政府武装勢力が潜伏する温床となっていました。

特にワズィーリスターン地域は、隣国アフガニスタンからの難民やアルカーイダ、ターリバーンなどの勢力が流入し、パキスタン軍やアメリカ軍による掃討作戦が繰り返される紛争地帯となりました。この紛争は、「ワジリスタン紛争」と呼ばれ、パキスタンとアフガニスタンの関係にも影を落としました。

地理と住民

FATAは、アフガニスタンとの国境に位置し、カイバル・パクトゥンクワ州、パンジャーブ州、バローチスターン州と接していました。住民の大部分はパシュトゥーン人で、ウルドゥー語と英語が公用語とされていましたが、パシュトー語やペルシア語も話されていました。都市部への居住率は非常に低く、大部分が農村部に住んでいました。

行政と自治

FATAは、パキスタン中央政府の支配が限定的で、部族長会議である「ジルガ」が行政を担っていました。ジルガは男性中心でしたが、一部には女性のみで構成されるジルガも存在し、女性の権利向上を訴えていました。部族は、パキスタンの上院・下院に議席を持っていましたが、政党法が適用されないため、独立候補として立候補していました。

経済と社会

FATAは、パキスタンの中でも最も貧しい地域の一つであり、教育も遅れていました。主な産業は牧畜で、わずかな耕作地で農業が行われていました。麻薬の栽培や密貿易も主要な収入源でしたが、パキスタン政府は麻薬対策に取り組んできました。

FATAの解体と統合

2017年、パキスタン政府はFATAを廃止し、カイバル・パクトゥンクワ州への編入を決定しました。一部政党はこれに反発し、州への昇格を要求しましたが、2018年5月31日の憲法改正により、FATAはカイバル・パクトゥンクワ州に正式に統合されました。これにより、FATAという地域は歴史的な役割を終え、パキスタンの新たな一歩を踏み出すこととなりました。

紛争の影響

FATAは、紛争の影響を大きく受けた地域です。ワジリスタン紛争では、多くの住民が難民となり、地域経済は大きな打撃を受けました。紛争は、パキスタンとアフガニスタンの関係を悪化させ、テロの温床となる要因ともなりました。

構造

FATAは、7つの部族地域と6つの辺境地域から構成されていました。

7つの部族地域

バージャウル管区
ムフマンド管区
ハイバル管区
オーラクザイ管区
クッラム管区
北ワジリスタン管区
南ワジリスタン管区

6つの辺境地区

バンヌ辺境地区
デーラ・イスマーイール・ハーン辺境地区
コハート辺境地区
ラッキ・マルワト辺境地区
ペシャーワル辺境地区
* タンク辺境地区

これらの地域は、パキスタンにおける社会経済開発の遅れや、紛争の影響を色濃く残す地域であり、その歴史的な背景から、パキスタン社会において重要な位置を占めていました。

FATAは、その特殊な歴史的背景と社会構造から、パキスタン社会において重要な位置を占めていました。その廃止とカイバル・パクトゥンクワ州への統合は、パキスタンの政治・社会構造における大きな転換点となりました。

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