那珂湊反射炉

那珂湊反射炉：日本の近代製鉄業の幕開け

那珂湊反射炉は、現在の茨城県ひたちなか市に、江戸時代末期に存在した水戸藩の反射炉です。徳川斉昭が海防強化のために建設を主導し、鉄製大砲の鋳造を目指しました。

反射炉建設の背景

那珂湊は、当時、東廻り航路の寄港地として、また物資の集散地として栄えていました。水戸藩は、初代藩主の徳川頼房の頃からこの地を重視し、海防に力を入れていました。しかし、異国船が頻繁に現れるようになり、海防の必要性が高まりました。そこで、9代藩主となった徳川斉昭は、藩政改革の一環として海防を強化。助川海防城を築き、大砲の製造に着手しました。

斉昭は、薩摩藩が反射炉の建設を進めていることを知り、鉄製大砲の優位性に着目。大工の飛田与七を鹿児島へ派遣し、反射炉の技術を学ばせました。これが、那珂湊反射炉建設の始まりでした。

第一炉の建設

資金と人材の調達

反射炉建設には莫大な資金が必要でした。水戸藩は江戸幕府から1万両を借り入れ、建設に着手しました。しかし、藩内には反射炉の知識を持つ人材が不足しており、他藩からの協力を得る必要がありました。

そこで斉昭は、熊田嘉膳の仲介で、大島高任と竹下清右衛門という二人の技術者を招きました。大島は蘭学の知識が豊富で、竹下は薩摩藩で反射炉の建設に携わった経験を持っていました。彼らの協力により、建設は本格的に動き出しました。

建設地と材料の選定

建設地は、最終的に那珂湊の吾妻台に決定しました。ここは太平洋に近く、遠方からも目立つ場所でした。また、反射炉の高温に耐える耐火煉瓦の材料として、小砂村の粘土が選ばれました。燃料となる石炭は、当初助川海岸から採取しようとしましたが、品質が優れなかったため、灯火用のガスの採取に切り替えられました。

着工から竣工へ

安政元年（1854年）8月に地鎮祭が行われ、基礎工事が始まりました。大島高任は念入りな基礎工事を指示し、4ヶ月もの時間を費やしました。煉瓦は吾妻台で焼かれ、安政2年（1855年）1月には煉瓦を積み上げる工事が開始されました。同年11月、ついに第一炉が完成しました。

大砲の鋳造

第一炉の完成後、大砲の鋳造が始まりました。しかし、最初の試射は失敗に終わり、その後も不良品が続くなど、困難が伴いました。それでも、試行錯誤を重ね、最終的には3門の大砲を鋳造し、そのうち1門を幕府に納めることができました。

第二炉の建設と崩壊

建設から鋳造の中断まで

第一炉だけでは大型の大砲を鋳造することが難しいため、第二炉の建設が計画されました。安政4年（1857年）に基礎工事が始まり、翌年には完成しました。第二炉では、第一炉よりも大型の大砲を鋳造することができましたが、斉昭が謹慎処分を受けたことで、反射炉の稼働は一時中断されました。

鋳造再開から天狗党の乱まで

文久2年（1862年）に飛田与七を中心に反射炉の稼働が再開され、カノン砲の鋳造に成功しました。しかし、元治元年（1864年）に天狗党の乱が勃発し、那珂湊は戦場と化しました。その結果、反射炉は破壊され、水車場は焼失し、その歴史を閉じました。

その後

反射炉の事業を終えた技術者たちは、それぞれの道を歩みました。大島高任は、日本の近代製鉄業の発展に大きく貢献し、「近代製鉄の父」と呼ばれるようになりました。那珂湊反射炉は、その役割を終えましたが、日本の製鉄業の幕開けを告げた重要な遺産として、その名を歴史に刻んでいます。

反射炉跡

反射炉跡は、現在「あづまが丘公園」として整備され、反射炉の復元模型が設置されています。また、園内には水戸藩の江戸藩邸にあった山上門が移築されており、当時の面影を偲ぶことができます。

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