鄧棨

鄧棨（とう けい）は、明代に活躍した官僚であり、字は孟拡と称しました。彼の生涯は、洪武29年（1396年）に始まり、正統14年（1449年）に悲劇的な最期を迎えるまで、波乱に満ちたものでした。本貫は建昌府南城県にありました。

鄧棨は、鄧伯修と鄭氏の間に生まれました。永楽22年（1424年）には進士に及第し、官僚としてのキャリアをスタートさせます。最初に任じられたのは監察御史の役職で、蘇州や松江といった重要な地域を巡按しました。この巡按の任期が終わる際、その公正な働きぶりを惜しんだ地元の有力者たちは、彼に引き続きこの地で職務を続けて欲しいと宮殿に請願しました。その結果、鄧棨は異例にも巡按御史を続投することになりました。しかし、間もなく父の喪に服すために官を離れます。

宣徳10年（1435年）には、楊士奇の推薦を受け、陝西按察使として再び官界に復帰しました。正統10年（1445年）には、中央に召還され、右副都御史に昇進しました。この頃には、その能力と誠実さが広く認められていました。

正統14年（1449年）、明王朝は大きな危機に直面します。オイラトのエセン・ハーンが明の北辺に侵攻を開始したのです。この事態を受け、時の皇帝、英宗は自ら軍を率いて親征することを決定しました。鄧棨はこの親征に扈従しましたが、その無謀さを深く憂慮していました。居庸関を出る際、鄧棨は英宗に対して直ちに帰還するよう進言し、軍事は経験豊富な将軍に任せるべきだと上疏しました。しかし、彼の諫言は聞き入れられませんでした。明軍が宣府や大同に到達すると、鄧棨は再び英宗に帰還を促す上書を提出しましたが、これもまた無視されました。

結局、明軍は土木の変で大敗を喫し、鄧棨もこの戦いで命を落としました。享年54歳でした。彼の死後、その功績を称え、資善大夫・右都御史の位が追贈され、諡は襄敏と贈られました。また、彼の息子である鄧瑺は大理寺評事に任じられました。

鄧棨の生涯は、官僚としての卓越した能力と、国を思う忠誠心、そして何よりも為政者の誤りを正そうとする勇気に彩られています。彼の死は、明王朝の歴史における大きな悲劇の一つとして記憶されており、その名は後世に語り継がれています。

参考文献としては、『明史』巻167 列伝第55や、焦竑が著した『国朝献徴録』巻55に収録されている「都察院右副都御史鄧公棨神道碑」などが挙げられます。これらの文献から、彼の生涯と業績をより深く知ることができます。

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