酒井忠能

酒井忠能（さかい ただよし）

酒井忠能は、江戸時代前期に活躍した大名です。彼は、徳川幕府4代将軍・徳川家綱の時代に大老を務めた酒井忠清の弟としても知られています。

生涯

寛永5年（1628年）3月17日、酒井忠行の次男として江戸の屋敷で生まれました。寛永13年（1636年）に祖父の忠世と父が相次いで亡くなると、兄の忠清と共に遺領を相続し、忠能は上野国那波郡など3郡2万2,500石を分け与えられ、伊勢崎藩（那波藩）の藩主となりました。

その後、忠能は将軍家世継の家綱付きとして三の丸奏者番を務め、家綱が将軍に就任すると本丸奏者番となりました。寛文2年（1662年）6月4日には、7,500石を加増され、3万石をもって信濃小諸藩に移封されます。

小諸藩では、前藩主・青山宗俊による用水工事で田地が増加した結果、領内で検地を実施しました（寛文の総検地）。しかし、忠能は百姓に対して苛酷な政治を行い、延宝6年（1678年）には年貢を増徴し、さらに家、窓、妻、板敷、家畜にまで諸運上を課しました。これらの税が未納の場合には、家財や俵、石臼、農具などを没収するという厳しい措置を取ったため、領民は飢えに苦しみ、乞食になったり、領地から逃亡したりする者が続出しました。ついに領内では領民による一揆（芦田騒動）が発生しました。

忠能は庄屋の訴えを聞き入れず、百姓たちは幕府に強訴しましたが、当時は兄の忠清が権勢を誇っていたため、幕府は一揆の首謀者を処刑し、延宝7年（1679年）9月6日には、忠能を1万石加増の上で駿河田中藩へ移封するという、いわば喧嘩両成敗のような形で騒動を鎮静させました。小諸の民衆は忠能の移封を喜び、「地獄極楽さかい（酒井）にて、日向（日向守忠能）出てゆくおき（隠岐守＝交代で入封した西尾忠成）は極楽」という落首が読まれたほどでした。

延宝8年（1680年）に家綱が亡くなると、徳川綱吉が第5代将軍に就任し、大老職を務めていた兄の忠清は解任され、翌天和元年（1681年）に亡くなります。同年12月10日、忠能も在国中の逼塞と勤務怠慢を理由に改易されました。改易の真相は不明ですが、綱吉が忠清を疎んでいたため、連座として処分されたとも、忠清の不審死に対する意趣返しとも言われています。忠能は近江彦根藩主・井伊直興預かりとなりましたが、元禄3年（1690年）4月19日に許され、2,000俵を与えられ、同年8月には5,000石の旗本寄合として存続を許されています。

宝永元年（1704年）6月27日、養子の忠佳（忠能のはとこにあたる酒井忠英の次男）に家督を譲って隠居し、宝永2年（1705年）5月22日に78歳で亡くなりました。

脚注

* 塩川友衛『小諸藩』現代書館〈シリーズ藩物語〉、2007年8月。

酒井忠能は、その苛酷な政治により領民から恨まれた一方で、幕府の要職を歴任するなど、波乱に満ちた生涯を送った人物と言えるでしょう。

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