醉象

醉象（すいぞう）について

醉象は、将棋の一種である小将棋、中将棋、大将棋などに存在する特異な駒です。一般的な本将棋には存在しないことが特徴であり、その名の通り「酔って暴れる象」を意味します。この言葉は、仏教において凶悪な心を象徴する語として使われることがありますが、なぜ将棋の駒名に使われたのかは不明です。

歴史と出土史料

醉象の最初の出現は大将棋であると考えられており、1058年に興福寺境内跡から出土した「醉像」と記された習書の木簡がその証拠とされています。一部の研究者は、平安時代の将棋、特に平安将棋や平安大将棋においてもこの駒が存在していたのではないかと考えています。さらに、16世紀の一乗谷朝倉氏遺跡から出土した174枚の将棋駒の中には1枚の酔象が含まれており、その裏面には太子と推測される文字が見つかっています。この研究に基づき、当時は酔象を含む小将棋と含まない小将棋の二種類が共存していたものの、酔象を含む小将棋は徐々に衰退していったとされています。

江戸時代に『諸象戯図式』や歴代将棋界の大名、11代大橋宗桂の石碑の拓本が示すところから、後奈良天皇が日野晴光と伊勢貞孝に命じ、酔象を小将棋から排除した結果、現代の将棋の形が整ったとされています。しかし、これは高貴な人物がゲーム形成に関与するのが当然という考えから生まれた後からの伝説であるとの見方もあります。

騎乗する駒：太子と王子

醉象が成ると太子となり、玉将（王将）と同じ機能を持ちます。玉将が取られても太子が存在する限り対局は続き、太子が取られるまでゲームは終了しません。王子についても同様のルールが適用されます。

駒の動きと役割

小将棋と中将棋では酔象は「象」と略され、成駒としては太子に成ります。この駒は、元の駒の完全な上位互換で、1マスの新たな動きを追加する唯一の駒です。他にこの特性を持つ駒としては、悪狼が金将に成る場合が挙げられます。大将棋中でもこの特性は保持されます。

摩訶大大将棋においては、成駒が王子となる点が特徴的です。

文化の中の醉象

醉象に関連した文学作品も存在します。たとえば、赤神諒の『酔象の流儀 朝倉盛衰記』や泡坂妻夫の遺稿『酔象秘曲』などがあり、文化的な影響も見受けられます。

参考文献と関連項目

歴史を紐解くための参考文献として、梅林勲と岡野伸の『改訂版 世界の将棋・古代から現代まで』などがあります。また、将棋の様々な種類や駒の一覧についてもまとめてある文献が多く存在します。

醉象は将棋の中で独特な位置を占め、その言葉の持つ意味や役割から、将棋界の文化や歴史を学ぶための重要な駒であると言えるでしょう。

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