伊勢貞孝

伊勢貞孝の生涯

伊勢貞孝は、戦国時代の武将であり、室町幕府の幕臣として活躍しました。彼は伊勢貞辰の子として生まれ、政所執事の伊勢貞忠の養子となり、その跡を継いで政所執事となりました。室町幕府内での伊勢氏の権威と影響力を背景に、将軍の補佐役として重要な役割を担いました。

初期の活躍

伊勢貞孝は、天文3年（1534年）には、父である伊勢貞辰と共に、北条氏綱から足利義晴の使者として接待を受けたという記録があります。この時、貞孝は「又次郎」と呼ばれており、幼名は「又三郎」であったとする説もあります。天文4年（1535年）に養父である貞忠が亡くなると、貞孝は家督を継いで政所執事となり、幕府の中枢で活躍することになります。

足利義晴・義輝との関係

伊勢貞孝は、室町幕府第12代将軍・足利義晴の臨終の際には枕元に侍り、後継者の足利義輝の補佐を遺言されたとされています。しかし、三好長慶によって義輝が追放された後も京都に留まるなど、義輝との関係は次第に悪化していきました。天文20年（1551年）には、貞孝と長慶が会談した際に長慶の暗殺未遂事件が起こるなど、両者の関係は緊迫していました。

三好長慶との対立

伊勢貞孝は、三好長慶の与党として、反長慶の細川晴元らの勢力とたびたび戦いました。しかし、天文22年（1553年）に足利義輝が長慶に追われて近江に逃れた際、貞孝はこれに従わずに京都に留まりました。これに対して義輝は、貞孝の所領を没収することを宣言しましたが、実際には三好方の支配下にあり、効力はありませんでした。永禄元年（1558年）には、丹波の所領を松永長頼と分割するなど、譲歩を強いられました。

没落への道

永禄元年（1558年）に義輝と晴元が攻め寄せた際には、三好方として戦いましたが（北白川の戦い）、義輝が三好長慶と和睦して帰京すると、長慶や細川氏綱と共に義輝を出迎えました。しかし、将軍の追放と復帰が繰り返された室町幕府において、伊勢氏は代々政所を取り仕切り、幕府機構の維持を図ってきました。その影響力は将軍の決定すら覆すほどになっており、義輝は伊勢氏そのものを脅威と見るようになりました。また、長慶の家臣である松永久秀が台頭するようになると、貞孝は次第に立場を失っていきました。

永禄5年（1562年）3月、六角義賢が京都に侵攻した際（将軍地蔵山の戦い）、義輝は長慶を支持して石清水八幡宮に逃れて長慶と共に抵抗しました。しかし、貞孝は六角氏占領下の京都に止まって政所沙汰を公然と行ったため、義輝と長慶双方の怒りを買いました。また、同時期に貞孝が職権を利用して幕府法に反して勝手に徳政免除を行っていたことが発覚し、政所代の蜷川親俊によって告発されました。6月に義輝と長慶が京都に復帰すると、貞孝は更迭されて失脚しました。

最期

失脚後、貞孝は京都船岡山で挙兵しましたが、長慶の命を受けた松永久秀の追討を受け、子の貞良と共に近江杉坂にて戦死しました。孫の貞為・貞興兄弟は生き延びましたが、伊勢氏は没落しました。なお、伊勢貞倍・伊勢貞助らの庶流は、貞孝とは行動を共にせず、引き続き義輝に仕えました。

伊勢貞孝の失脚と滅亡によって、伊勢貞継以来長く続いた伊勢氏による政所支配の歴史に終止符が打たれました。義輝は新たに政所執事に任じた摂津晴門を通じて政所の掌握を図り、将軍権力の回復を図りましたが、これが長慶没後の三好氏や松永久秀の反感を買って永禄の変の遠因となりました。

伊勢貞孝の生涯は、室町幕府の権力闘争の激しさ、そして戦国時代の武将たちの盛衰を象徴的に表していると言えるでしょう。

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