金襴の陣

金襴の陣とは

金襴の陣（きんらんのじん、Field of the Cloth of Gold）は、1520年6月7日から24日にかけて、イングランド王ヘンリー8世とフランス王フランソワ1世が、現在のフランス、カレー近郊のバランゲム平原で会見した際に設けられた会場、またはその会見自体を指します。この会見は、1518年の英仏条約に基づき、両国の親交を深める目的で企画されました。

会見の背景

16世紀初頭のヨーロッパでは、フランスと神聖ローマ帝国という二大強国が台頭し、イングランドは両国からの同盟を求められる状況でした。1518年には、オスマン帝国の拡大に対抗するため、ヨーロッパ主要国間でロンドン条約が締結されました。ヘンリー8世は、金襴の陣の直前に神聖ローマ皇帝カール5世とも会見を行いましたが、その規模は金襴の陣には及びませんでした。会見の場所として、イングランドが大陸で唯一領有していたカレーが選ばれました。

ヘンリー8世とフランソワ1世は、共にルネサンス期の君主として名を残したいと願っていました。ルネサンスの思想では、強力な君主が平和を選択できると考えられており、会見は両国の宮廷の威容を示すと同時に、伝統的な敵国同士が平和を築く可能性を示す場となるはずでした。二人の王は同世代で、互いに関心を抱いていたとされています。

会見の準備は両国が平等になるように進められました。会場はカレー周辺のイングランド領の境界に位置し、最初の対面の舞台となる谷は両国の関係者の高さが等しくなるように整地されました。この大規模な行事は、教皇使節トマス・ウルジー枢機卿が計画・実施しました。

会見の内容

会見では、豪華なテント、饗宴、音楽、騎馬試合、ゲームなどが催され、両国の王は互いに優位に立とうと競い合いました。特に、金糸織物（絹と金糸で織られた高価な織物）が多用され、その豪華さから「金襴の陣」と呼ばれるようになりました。

宿泊施設は、両君主とその随行員のために特に念入りに準備されました。ヘンリー8世側は、この会見をヨーロッパ中に印象づけるために力を注ぎました。グイド城の前には、約10,000平方メートルの仮設宮殿が建設されました。この宮殿は、中心の中庭を持つ四つの区画に分かれており、側面は約91メートルありました。基礎部分は高さ約2.5メートルのレンガ造りでしたが、壁は木材とキャンバスで作られ、石やレンガのように塗装されていました。屋根は鉛色の油布で作られ、スレートのように見えました。宮殿内には巨大なガラスが使用されており、当時の贅沢な流行の最先端でした。内部は黄金の装飾で飾られ、外の泉からは赤ワインが流れ出ていました。付属の礼拝堂には35人の聖職者が仕えていました。作曲家ジャン・ムートンは、フランソワ1世により音楽担当に任命され、フランス王室礼拝堂の合唱隊は、ヨーロッパで最も優れた合唱隊の一つと評され、聴衆を魅了しました。あるテントに使われた木製の天井は、後にアイサム・モート内の礼拝堂に設置され、現在でもその面影を見ることができます。

ヘンリー8世の随行員の規模は、1ヶ月で2200頭の羊と同量の食料が消費されたという事実からも伺えます。城の向こうの平原には、身分の低い訪問者のために2800ものテントが設営されました。豪華な衣装を身にまとった貴婦人や騎士たちが、騎士道時代の復活を望み、山師、乞食、行商人が会場に集まりました。

カレーからの旅路で、ヘンリー8世は1520年6月4日にギーヌの拠点に到着し、フランソワ1世はアルドルの宮殿に滞在しました。6月7日、ウルジー枢機卿がフランス王を訪問した後、両王はヴァル・ドールで対面しました。

その後の数日間は、騎馬試合や晩餐会が催され、イングランドとフランスの参加者による弓矢やレスリングの大会も開催されました。6月24日の聖体の祝日には、ウルジーがミサを執り行い、両王は別れを告げました。ミサ中に空飛ぶドラゴン、あるいはサラマンダーのようなものが現れるという出来事がありましたが、これは花火であったと考えられています。説教はエラスムスの友人であるリチャード・ペイスが担当し、ウルジーは列席者全員に贖宥状を与えました。

会見の結果とその後

この会見は同時代の人々に大きな印象を与えましたが、政治的な成果はほとんどありませんでした。あるフランス人によれば、ヘンリー8世はフランソワ1世とのレスリングで敗れたことに不機嫌になったとされています。英仏関係はその後、ウルジーがカール5世と同盟を結んだことで急速に悪化し、1521年には第三次イタリア戦争でフランスに対して宣戦布告することになりました。

参照

Russell, J.G. (1969). Field of Cloth of Gold: men and manners in 1520. London: Routledge. ISBN 0-7100-6207-9
Chisholm, Hugh, ed. (1911). "Field of the Cloth of Gold". Encyclopædia Britannica (英語). Vol. 10 (11th ed.). Cambridge University Press. p. 327.

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