釣り野伏せ

釣り野伏せとは

釣り野伏せ（つりのぶせ）は、戦国時代に九州の戦国大名、島津義久によって考案・実践されたとされる戦法です。野戦において、全軍を三隊に分け、二隊を左右に伏兵として配置し、中央の部隊が敵を挑発して後退、敵が追撃してきたところを伏兵が包囲するという戦術です。

戦法の詳細

1. 中央部隊による誘引（釣り出し）: まず、中央の部隊が敵と交戦し、わざと敗走を装って後退します。この退却は敵を油断させ、追撃させるための「釣り」の役割を果たします。
2. 伏兵による包囲（野伏せ）: 敵が中央部隊を追撃して前進してきたところで、左右に潜んでいた伏兵が敵の側面や背後から奇襲をかけます。
3. 中央部隊の反転: 伏兵が攻撃を開始すると同時に、敗走を装っていた中央部隊が反転し、敵を挟撃します。これにより、敵は三方から包囲され、殲滅されることになります。

この戦法は、少数で多数の敵を打ち破るために考案されたため、中央部隊は敵と比べて兵力で劣勢であることが多く、実行には高度な練度と指揮能力が求められました。特に、退却を装う中央部隊は、統制を保ちながら敵を誘い込む必要があり、少しでも乱れれば全軍が潰走する危険性がありました。そのため、指揮官には冷静な状況判断能力と兵士からの信頼が不可欠でした。

また、伏兵を配置する場所も重要であり、必ずしも適切な地形が確保できるとは限りません。その場合は、伏兵の代わりに側面部隊が迂回して敵を包囲することもありました。

島津氏の釣り野伏せ

島津氏は、初期の合戦で伏兵を用いた戦いが結果的に包囲殲滅の形になることがありましたが、後に積極的に「釣り」を取り入れるようになりました。これにより、耳川の戦い、沖田畷の戦い、戸次川の戦いなど、数々の重要な戦いで勝利を収め、一時的に九州をほぼ統一することに成功しました。さらに、慶長の役の泗川の戦いでは、数倍とも数十倍とも言われる明・朝鮮連合軍を打ち破るという大戦果を挙げています。

類似の戦法

釣り野伏せに似た戦法は、他の地域や時代にも見られます。

モンゴル帝国: モンゴル帝国も、機動力を活かして敵を誘い込み、伏兵で包囲殲滅する戦法を得意としていました。ワールシュタットの戦いはその一例として知られています。
立花道雪と高橋紹運: 戦国時代の九州では、大友氏の家臣である立花道雪や高橋紹運も釣り野伏せに類似した戦法を用いていました。彼らは連携して、秋月氏や筑紫氏などの敵軍を撃退しています。
立花宗茂: 高橋紹運の子で立花道雪の婿養子となった立花宗茂も、文禄・慶長の役で朝鮮軍や明軍に対してこの戦法を活用し、敵軍を撃破しています。
筑紫惟門: 筑紫惟門も度々大友氏との戦いで、この戦法を用いて勝利しています。
志賀親次: 志賀親次は、島津軍が得意とする釣り野伏せを、逆に用いて島津軍を撃退したことがあります。
吉弘統幸: 吉弘統幸は、関ヶ原の戦いの前哨戦である石垣原の戦いで、釣り野伏せを用いて黒田孝高の軍勢に大損害を与えました。

まとめ

釣り野伏せは、戦国時代の九州で生まれた独特の戦法であり、その後の戦においても活用されました。少数の兵力で多数の敵を打ち破るための戦術であり、その成功には高度な練度と指揮能力が不可欠でした。また、この戦法は、他の地域や時代にも類似した戦法が見られ、戦術の普遍性を示しています。

関連項目

偽装退却
耳川の戦い
沖田畷の戦い
戸次川の戦い
泗川の戦い
捨て奸
鉄床戦術
陽動

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