島津義久

島津義久

島津義久（しまづ よしひさ）は、戦国時代から安土桃山時代にかけての武将で、薩摩国（現在の鹿児島県）の守護大名、戦国大名です。島津氏の第16代当主として、その卓越した戦略と兄弟たちの協力を得て、九州統一を目指しました。彼の生涯は、戦国時代の激動と変遷を色濃く反映しています。

生涯

幼少期

天文2年（1533年）2月9日、島津氏第15代当主である島津貴久の嫡男として、伊作城（現在の鹿児島県日置市）で生まれました。幼名は虎寿丸と名付けられました。

幼少期の義久は、大人しい性格であったと伝えられています。しかし、祖父である島津忠良は、義久を「三州（薩摩・大隅・日向）の総大将たる器」と見抜き、兄弟それぞれの個性を評価していました。義久には、その統率力と指導力に大きな期待を寄せていたのです。

元服後、義久は祖父と同じ「忠良」を諱とし、通称を又三郎と名乗りました。後に、室町幕府第13代将軍足利義輝から偏諱を受け、「義辰」と改名。その後、さらに「義久」と改名しました。

三州統一

天文23年（1554年）、義久は岩剣城攻めで初陣を飾りました。その後、薩摩・大隅の国衆との戦いに従事し、弘治3年（1557年）には蒲生氏を降伏させ、永禄12年（1569年）には大口から相良氏と菱刈氏を駆逐するなど、着実に勢力を拡大しました。元亀元年（1570年）には東郷氏・入来院氏を降伏させ、薩摩統一を成し遂げました。

永禄9年（1566年）、父・貴久の隠居に伴い、義久は島津家第16代当主となりました。

薩摩統一を進める中で、義久は薩隅日肥の要衝である真幸院の帰属を巡り、日向国の伊東義祐と対立しました。元亀3年（1572年）には、伊東氏の大軍が島津領に侵攻しましたが、義久の弟・島津義弘は木崎原の戦いで伊東軍を打ち破り、その名を轟かせました。

大隅国の統一も並行して進められ、天正元年（1573年）に禰寝氏、翌年には肝付氏と伊地知氏を帰順させ、大隅統一も果たしました。天正4年（1576年）には、日向国の伊東氏の高原城を攻略し、伊東氏は衰退。伊東義祐は豊後国の大友宗麟を頼って亡命し、ここに三州統一が達成されました。

耳川の戦い

伊東義祐の亡命後、大友宗麟は天正6年（1578年）に大軍を率いて日向に侵攻しました。島津軍は高城に山田有信、佐土原に島津家久を配置し、大友軍の侵攻に備えました。大友軍は高城を包囲し、両軍の間で激しい攻防が繰り広げられました。

11月、義久は2万余りの軍勢を率いて佐土原に着陣。奇襲を仕掛け、高城川を挟んで大友軍と対峙しました。大友軍は宗麟が不在だったこともあり、統率が取れていませんでした。義久は「釣り野伏せ」という戦法を用い、大友軍を壊滅させました。この戦いでは、大友軍の主要な武将を多数討ち取るという大勝利を収めました（耳川の戦い）。この敗北により、大友氏は衰退し、肥後国の名和氏と城氏が島津氏に誼を通じることとなりました。

天正8年（1580年）、島津氏は織田信長との間で交渉を開始しました。これは、信長が毛利氏攻撃に大友氏を参戦させるため、大友氏と敵対している島津氏を和睦させようとしたものでした。しかし、天正10年（1582年）の本能寺の変で信長が死去したため、この計画は実現しませんでした。

天正9年（1581年）には、球磨の相良氏が降伏し、島津氏の勢力下に加わりました。

沖田畷の戦い

耳川の戦いで大友氏が衰退すると、肥前国の龍造寺隆信が台頭してきました。龍造寺氏の圧迫に耐えかねた有馬晴信は、島津氏に援軍を要請しました。天正10年（1582年）、島津軍は龍造寺方の千々石城を攻め落とし、有馬氏は島津氏に服属しました。

天正12年（1584年）、義久は家久を総大将として島原に派遣し、自らは肥後国の水俣まで出陣しました。家久は沖田畷で龍造寺隆信を討ち取り、龍造寺軍を壊滅させました（沖田畷の戦い）。この勝利により、龍造寺氏は島津氏に降伏しました。

九州統一への戦い

龍造寺氏が降伏すると、肥後国の隈部親永・親泰父子や筑前国の秋月種実らが次々と島津氏に服属しました。天正13年（1585年）には、島津軍が肥後国の阿蘇惟光を下し、肥後国を完全に平定しました。この頃、大友宗麟は豊臣秀吉に助けを求め、秀吉から島津氏に九州での戦争を禁じる書状が送られました（惣無事令）。

しかし、義久はこれを無視し、大友氏の所領である筑前国への攻撃を命じました。天正14年（1586年）、義久は筑前攻めの指揮を執り、勝尾城を陥落させました。しかし、岩屋城の戦いでは多くの犠牲を出し、豊後侵攻へ方針を転換しました。

義弘と家久に豊後攻略を命じましたが、義弘は苦戦し、家久は戸次川の戦いで豊臣連合軍を破りました。しかし、豊臣秀吉が九州征伐を開始すると、島津軍は劣勢に立たされ、撤退を余儀なくされました。

秀吉の九州征伐

天正15年（1587年）、豊臣秀吉の大軍が九州に上陸。島津軍は劣勢に立たされ、本国へと撤退しました。島津忠辰や伊集院忠棟が降伏し、義久も剃髪して龍伯と号し、秀吉に降伏しました。しかし、弟の歳久は最後まで抵抗しました。

豊臣政権下

秀吉は島津家の領地として、義久に薩摩一国、義弘に大隅一国、久保（義久の甥）に日向国諸縣郡を宛がいました。その後、島津家は刀狩令に応じず、軍役も十分に果たせなかったため、秀吉の不信感を買い、歳久は自害を命じられました。義弘は石田三成に検地実施を要請し、島津氏の石高は倍増しましたが、義久の直轄地は減らされました。義久は当主の座を追われ、富隈城に移りましたが、依然として島津領内での実権は握っていました（両殿体制）。

秀吉の死後、朝鮮の役が終結すると、島津家は5万石の加増を受けました。しかし、家中の軋轢は強まり、忠恒が伊集院忠棟を斬殺する事件が起こりました。

関ヶ原の戦いと戦後処理

慶長5年（1600年）、関ヶ原の戦いにおいて、義弘は西軍に加担しました。しかし、義久と忠恒は動かず、島津家は関ヶ原の戦いには直接的には関与しませんでした。戦後、義久は西軍に加担したのは義弘であるとし、徳川家康と講和交渉を始めました。この交渉は2年に及び、家康は義久に譲歩を重ねました。最終的に、義久は所領を安堵され、島津家は改易を免れました。

晩年

慶長7年（1602年）、義久は「御重物」と当主の座を忠恒に譲り渡して隠居しました。しかし、その後も江戸幕府と書状をやり取りするなど、強い影響力を持ち続けました。晩年には、忠恒との不仲や琉球出兵への反対など、家中で意見の対立が見られました。慶長16年（1611年）、義久は国分城で病死しました。享年79歳でした。

人物・逸話

義久は、徳川家康に興味を持たれており、本多忠勝に命じて島津豊久（義久の甥）から耳川の戦いの詳細を聞いたという逸話があります。また、家康に合戦の手柄を尋ねられた際に「自分の働きはない」と答えたことで、家康から「大将の道」を感心されたと伝えられています。

義久は、国分地方でのタバコ生産を奨励し、薩摩藩の貴重な収入源を確立したとされています。

また、自室に歴史上の大悪人の肖像画を飾り、「悪い行いをしないように」と自戒していたという逸話も残っています。義久の肖像画は残っていませんが、教養人としても知られており、細川幽斎から古今伝授を受け、関白近衛前久とも親交が厚かったとされています。

義久は、城門の質素さよりも民衆の生活を重視し、豊臣秀吉からの和睦の要請を拒否するなど、独自の信念を持っていました。また、戦の際にはくじ引きで吉凶を占っていたという一面もありました。

末弟の島津家久が妾腹の子であったため、兄弟たちからからかわれたことがありました。しかし、義久は家久を庇い、学問と武芸に励むように励ましたという逸話があります。また、狩場で落ちた家臣の笠の持ち主の名前を消したことで、家臣から慕われていたというエピソードも残っています。

系譜

出自

島津氏は、惟宗氏の一族である惟宗忠康の子・忠久が、鎌倉時代に日向国島津荘を源頼朝に与えられたことに始まります。義久の家系は分家の相州家でしたが、父・貴久が家督争いを制し、本宗家当主となりました。

配偶者

義久の正室は、祖父・忠良の娘（叔母）である花舜夫人と、種子島時尭の娘である円信院殿です。その他にも、側室がいた可能性が指摘されています。

子孫

義久には実子がなかったため、弟・義弘の子である忠恒を養嗣子としました。忠恒の子孫が薩摩藩主となり、その血筋は今日まで続いています。

家臣

義久は、多くの有能な家臣に支えられ、九州統一を目指しました。上井覚兼の日記などにも、その活躍が記録されています。

墓所

義久の墓所は、鹿児島市内の福昌寺跡や、霧島市国分の金剛寺跡にあります。また、京都市の今熊野観音寺や高野山にも供養塔があります。

官歴

永禄7年（1564年）：従五位下修理大夫
天正9年（1581年）5月3日：従四位下
大正4年（1915年）11月10日：贈従三位

参考文献

三木靖『薩摩島津氏』新人物往来社、1972年。
福島金治『戦国大名島津氏の領国形成』吉川弘文館、1988年。
吉永正春『九州戦国合戦記』海鳥社、1994年。
村川浩平『日本近世武家政権論』近代文芸社、2000年。
『裂帛島津戦記―決死不退の薩摩魂』学研、2010年。
黒嶋敏「織田信長と島津義久」『日本歴史』741号、2010年。
黒嶋敏「島津義久 熱く、冷めた信長へのまなざし」『歴史読本』56巻7号、2011年。

関連項目

上井覚兼日記
泰平寺 (薩摩川内市)
大乗院 (鹿児島市)
小林城
高原城
島津義久を主題とした作品
* 桐野作人『島津義久 九州全土を席巻した智将』（PHP文庫）


島津義久は、戦国時代の激動期を生き抜いた智将であり、その生涯は、九州の歴史に大きな足跡を残しました。

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