鈴木新田 (大田区)

鈴木新田の歴史と変遷

鈴木新田（すずきしんでん）は、現在の東京都大田区羽田地域、具体的には羽田空港一・二丁目（旧猟師町御台場部分を除く）にあたる場所に存在した村および大字です。この地は、かつて穴守稲荷神社を中心とした首都近郊の一大観光地として知られていました。多摩川の河口に位置し、その歴史は江戸時代にまで遡ります。

地理

鈴木新田は、大田区臨海部の多摩川河口河川敷、左岸部に位置していました。この場所は、かつては干潟であり、羽田浦や扇ヶ浦、要島と呼ばれていた低湿地でした。

歴史

江戸時代から新田開発へ

この地の開拓は、江戸時代に武蔵国荏原郡羽田猟師町の名主であった鈴木弥五右衛門が中心となって始められました。天明年間（1780年代頃）から開墾が始まり、文化12年（1815年）に事業が完成しました。新田開発には、近隣の農村からの分家が多く従事し、特に大森村出身者が多かったとされています。実際に判明している15軒のうち11軒が大森出身者であり、その子孫の多くは現在でも羽田周辺に居住しています。鈴木弥五右衛門は、羽田猟師町を子に譲った後、文化・文政年間頃に、後に穴守稲荷神社となる祠を勧請し、新田内に邸宅を構えて隠居しました。

鈴木新田の成立

1829年（文政12年）、この開墾地は羽田猟師町から分かれ、「鈴木新田」と名付けられました。その後、羽田村、羽田猟師町、鈴木新田の三集落を合わせて「羽田三ヶ村」と呼ばれるようになりました。

明治時代以降の発展

1885年（明治18年）には、穴守稲荷神社が公衆参拝の神社として公認され、以後、鈴木新田は鳥居前町として発展しました。1889年（明治22年）には町村制の施行に伴い、周辺の村々と合併して羽田村が誕生し、鈴木新田は羽田村の大字となりました。1894年（明治27年）には鉱泉が発見され、鉱泉宿街が形成されるなど、観光地としての魅力も高まっていきました。1902年（明治35年）には京浜電気鉄道（現在の京浜急行電鉄）穴守線が開通し、1913年（大正2年）には鈴木新田内まで延伸され、穴守駅が設置されました。これにより、交通の便も向上しました。

近代化と東京飛行場の誕生

1909年（明治42年）には羽田運動場が開設され、1911年（明治44年）には羽田穴守海水浴場が開設されました。同年には、羽田運動場で国際オリンピック大会選手予選会が開催されるなど、スポーツの場としても注目されました。1917年（大正6年）には日本飛行学校が創設され、後の東京飛行場の誕生へと繋がります。1931年（昭和6年）には、東京飛行場が開港し、この地域は大きく変貌を遂げることになります。

東京市への編入と戦争の影響

1932年（昭和7年）、羽田町は東京市に編入され、鈴木新田は羽田穴守町、羽田江戸見町、羽田鈴木町、羽田御台場、鈴木御台場に分割・改称されました。その後、1938年（昭和13年）には羽田飛行場が拡張され、1939年（昭和14年）には大師橋が完成し、羽田と川崎を結んでいた渡し船が廃止されました。

強制退去と戦後の変遷

1945年（昭和20年）、第二次世界大戦終戦後、連合国軍は東京飛行場の引き渡しを要求し、羽田穴守町、羽田江戸見町、羽田鈴木町の住民に48時間以内の立ち退きが命じられました。これにより、約1,200世帯3,000人が強制退去を余儀なくされ、この地には「ハネダ・エアベース」が建設されました。1952年（昭和27年）には、ハネダ・エアベースの一部が返還され、東京国際空港として再出発し、1958年（昭和33年）に全面返還されました。

現在

1967年（昭和42年）に住居表示が実施され、旧鈴木新田の地域は羽田空港一丁目及び二丁目となり、地名としての鈴木新田は消滅しました。しかし、その歴史を伝えるべく、一部が鈴木新田跡地として大田区の有形文化財に指定されています。2020年（令和2年）には、旧羽田鈴木町部分に建設されたHANEDA INNOVATION CITY内に「旧三町顕彰の碑」が建立され、その歴史が後世に伝えられています。

施設

穴守稲荷神社：地域の鎮守神社であり、戦後の強制退去により現在は隣接する大田区羽田に鎮座しています。
玉川弁財天：強制退去後、羽田水神社へ合祀されました。
鈴納稲荷神社：強制退去後、羽田神社境内へ遷座されました。
穴守駅：連合国軍による接収に伴い、廃駅となりました。
羽田穴守海水浴場：かつては多くの人々で賑わいました。
羽田運動場：スポーツの場として利用されました。
羽田競馬場：かつて存在した競馬場です。
鴨場：御料の鴨場と黒田侯爵家の鴨場がありました。
羽田第三小学校：地域の子どもたちが通っていました。
日本飛行学校：後の東京飛行場誕生のきっかけとなりました。
東京飛行場：現在の東京国際空港（羽田空港）の原型です。

関連項目

鈴木新田 (川崎市) - 同じく鈴木弥五右衛門によって開かれた新田
* 穴守稲荷神社


鈴木新田は、新田開発から始まり、観光地、そして国際空港へと姿を変えながらも、その歴史と文化を今に伝える場所です。

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