鈴木重秀

戦国を駆け抜けた鉄砲の達人鈴木重秀

鈴木重秀は、戦国時代から安土桃山時代にかけて紀伊国で活躍した武将です。雑賀党鈴木氏の一族に生まれ、鉄砲傭兵集団として知られる雑賀衆の中でも、特に優れた能力を持つ人物でした。通称は孫一で、これは彼自身の著作にも記されています。

謎多き孫一

「雑賀孫一」の名で知られる彼は、石山合戦での活躍で有名ですが、同時代の他の「孫一」と人物が混同されることが多く、史料不足も相まって、その生涯を正確に辿るのは容易ではありません。しかし、『本願寺文書』に「重秀」の署名が残されていることから、石山合戦で活躍した鈴木孫一が鈴木重秀であるとされています。

一般的には雑賀衆の頭目と認識されていますが、実際は雑賀衆全体を統率する指導者ではありませんでした。雑賀衆自体が、厳格な組織だったわけではありません。石山合戦の講和交渉においても、重秀は「雑賀一向宗」の四宿老や「雑賀衆」七人の一人として起請文に署名しています。司馬遼太郎の小説『尻啖え孫市』で描かれるような「七万石の大名」という記述は、『紀伊続風土記』の誤りであると指摘されています。しかしながら、織田氏や本願寺氏の文書にも記録されているように、その軍事力は高く評価されており、本願寺顕如からも特別な扱いを受けていたのは確かなようです。

生涯の軌跡

重秀の生没年は不明ですが、同時代の雑賀の土豪である佐武伊賀守の『佐武伊賀覚書』によると、弘治3年（1557年）頃の名草郡の戦いでは既に有力者として活躍しており、この頃には20代後半に達していたと考えられます。

彼の家族関係についても、確かな史料はありません。父については「鈴木佐大夫」説が一般的ですが、確証はありません。「鈴木左近大夫」、「鈴木次郎左衛門光善」といった説もありますが、いずれも信頼性に欠けます。子については「鈴木孫三郎重朝」という説がありますが、重朝の家譜自体が彼の先祖を不明としています。『佐武伊賀覚書』には「宗忠」という伯父または叔父の存在が記されています。

『東京湯川家文書』永禄五年七月の起請文には「十ヶ郷鈴木孫一殿」という記述があり、これが年紀の明確な史料における初出となります。十ヶ郷は紀ノ川北岸の河口近くで、「雑賀荘」とは異なります。彼の拠点としたのは、現在の和歌山県和歌山市平井です。

石山合戦

石山合戦では、多くの雑賀衆と共に本願寺側に加担し、鉄砲部隊の大将として約5000丁の鉄砲を用いて織田信長を苦しめました。下間頼廉と並び「大坂之左右之大将」と称されたほどです。天正2年（1574年）10月には、足利義昭の復権を支援する真木島昭光から書状を受け取っています。

天正4年（1576年）5月の天王寺の戦いでは、信長と直接対決し、双方に多くの死傷者が出ました。この戦い後、孫一の偽首が京に晒されたことから、彼の武名を伺い知ることができます。その後も、毛利軍による本願寺への補給、信長の雑賀攻撃への対応、荒木村重の有岡城への援軍など、各地で活躍しました。しかし、反信長勢力が次々と敗れ、雑賀衆も内紛を抱える中、本願寺は降伏。重秀は信長との交渉役を務めたとされますが、詳細は不明です。講和後、重秀は信長に接近しました。

織豊政権期

天正9年（1581年）には、雑賀荘の土橋守重との対立が激化。顕如の仲裁もむなしく、翌天正10年（1582年）1月23日、重秀の刺客が守重を暗殺。信長の支援を得た重秀派は守重派を攻撃し、同年2月8日に勝利を収めました。しかし、同年6月2日の本能寺の変後、重秀は翌朝にその報を受け、夜に岸和田城へ脱出しました。この行動は「夜逃」と評されましたが、4日後には土橋派の攻撃が始まり、危うく難を逃れたのです。

その後2年間は史料に現れませんが、天正12年（1584年）の小牧・長久手の戦いでは、羽柴秀吉側に加担。8月の秀吉の陣立書には、鉄砲頭として「鈴木孫一殿弐百」とあり、鉄砲頭9人中最多の兵力を率いていました。天正13年（1585年）の紀州攻めでは、太田城への降伏勧告の使者となり、役の後には息子を秀吉の人質に出しました。これが「鈴木孫一重秀」として確実な史料で確認できる最後の活動です。その後、雑賀に戻った形跡はなく、大坂で亡くなったと考えられます。人質に出された息子は、後に豊臣家の鉄砲頭「鈴木孫一郎」になったとされます。

参考文献

鈴木眞哉『戦国鉄砲・傭兵隊天下人に逆らった紀州雑賀衆』平凡社〈平凡社新書〉、2004年
司馬遼太郎『尻啖え孫市』講談社

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